大学生活に悩みはつきものです。その内容は、授業の選び方や経済的な問題、対人関係など多岐にわたります。そんな学生たちの心の支えとなり、問題解決への橋渡しをしていくのが学生相談室カウンセラーです。主に大学の学生相談室で活躍するカウンセラーについて、業務内容や資格との関係、収入などについてまとめました。
学生相談室ってどんなところ?
学生相談室は大学や短期大学に置かれ、学生たちのあらゆる相談を受け付けています。勉強と直接的に関わる履修(どのような授業を選べばよいか?)の問題だけでなく、次のような相談にも対応します。
- ボーッとしてやる気がでない
- 教授に嫌がらせをされている
- 高級な布団を無理やり買わされた
- 学費が払えそうにもない
- 消費者金融で借金をしてしまい、返すアテがない
- LGBTであることを隠しているが、クラスメイトに知られてしまった
- 進路について悩んでいる
- 退学や休学を考えている
このような悩みに対して寄り添い、基本的には学生自身による解決を目指します。法律のスキルを使った交渉や医学的な対応が必要だと考えられる場合には、弁護士や精神科医などの専門家をリファー(紹介)します。
内容として多いのは、心理的な悩みや相談です。
慶應義塾大学学生相談室カウンセラーの秋田恭子氏が同大学教養研究センターのclaアーガイブズ26に発表した内容によると、2009年の相談内容は心理39%、その他38%、進路9学業9生活8と、心理がトップです。
了徳寺大学研究紀要によると、同大学における2017年の相談内容は34件中、自己理解が18件と最多。「「自分の性格を知るために心理テストを受けたい」と語る学生が多く」、YG 性格検査やロールシャッハテストなどの心理テストを実施したとのことです。翌2018年に自己理解は1件と少なくなっているものの、心身の不調や無気力など他の心理系の悩みと合わせるとやはり半分以上を占めています。
学生相談室にはさまざまな悩みが寄せられる中で、心理学の知見を使って対応することが多いのです。
ひとつの相談にかける時間は50分~1時間。学生へのサービスの一貫として行われるので、相談料は受け取りません。カウンセラーには大学から報酬が支払われます。
学生相談室を利用する割合は0.5~5%程度という研究があります。1万人以上の学生を抱える大学は少なくありませんから、多くて年間数百人の相談に対応するわけです。職場によっては忙しいところもあるでしょう。
職員にはどんな人がいる?
最初に相談者と面談する相談員には、臨床心理士か公認心理師の資格を持ったカウンセラーを配置する大学が多いようです。大学院で臨床心理学を学んでいる学生が、実習を兼ねて担当するケースもあります。この場合は教官の指導を受けて臨みます。
大学の職員が相談員となることも少なくありません。
あるいは、精神科医や弁護士などの専門家が最初から対応することもあります。相談する内容が明確な場合は、対応がスムーズです。
臨床心理士の場合、パートやアルバイトなどの臨時雇用という形で週1~3日程度働くのが一般的です。時給は1,200円~2,000円前後といったところでしょう。
多くの相談室は、臨床心理士が代表を務めています。1959年発行の「日本の大学における学生相談活動の調査報告」(学生相談研究会編、民生教育協会出版)によると、代表者の専攻学科は心理学が45%、他は生物や哲学がそれぞれ10パートナーと、心理学科がダントツのトップ。学生相談には、古くから心理学に関する知見が必要とされていたことを伺い知ることができます。
どうすれば学生相談室のカウンセラーになれる?
大学に就職すればいずれなれるかもしれませんが、もちろん事務や広報など、他の仕事を担当することもあります。
パートやアルバイトなどの求人は募集されていますが、あまり多くはありません。臨床心理士を対象としていることが多く、資格がない人にとっては狭き門といえます。
学生相談室カウンセラーの収入は?
臨床心理士の学生相談室における時給は1,200円~2,000円前後といったところでしょう。もし時給1,500円、週に5回8時間ずつ働くのであれば、年収は約300万円。一家を養うのであれば、スクールカウンセラーや大学講師など収入の高い仕事と両立する必要があります。
職員として勤めるのであれば、大学の給与体系に沿った報酬になります。大学職員の平均年収は500万円~800万円といったところでしょう。
学生相談室のカウンセラーになりたい人はどんなことを勉強すればいい?
学生相談室のカウンセラーを究めたい、というのであれば臨床心理学の知見は欠かせないといってよいでしょう。教育心理学や発達心理学も必要です。
特に近年、発達心理学の知見が求められる傾向にあります。幼年期に表面化しなかった発達障害が青年期に悩むの原因となるケースが増えているのです。
教育心理学や臨床心理学、発達心理学について詳しく知りたい人は以下の記事を参照してください。
専門的な資格としては日本学生相談学会の学生カウンセラーがある
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学生相談室に関して権威がある団体としては、日本学生相談学会やNPO法人全国大学メンタルヘルス学会などがあります。資格がなければ学生相談室カウンセラーになれないわけではありませんが、取得すると転職や再就職に有利になるでしょう。
日本学生相談学会は、学生相談に関する資格として、次の2つを認定しています。
学生カウンセラー
取得するためには、学生相談の実務経験が必要です。他にも学会での研究発表や活動の経験、レポートや面接試験などの通過しなければなりません。
学生支援士
カウンセラーというよりは、どちらかというと教員向けの資格です。3年以上の教職員の経験と、学会主催の研修を受ける必要があります。
これからの学生相談室
グローバル化に伴って日本を訪れる留学生は増えています。彼らの経済的・心理的な悩みに乗るのも学生相談室カウンセラーの仕事。語学力や海外の文化に詳しいカウンセラーは重宝されるようになるかもしれません。
全国大学メンタルヘルス協会の大学のメンタルヘルス2017vol1によると、2015年の調査でメンタルヘル上の問題を理由とした休学・退学者数は合計1,090人。学生の異変に気づき、学生生活から不本意に離れることを避ける手助けができれば、大きなやりがいになるのではないでしょうか。
参考文献
現代社会と応用心理学1クローズアップ学校 日本応用心理学会 福村出版 2015年9月
学校教育の心理学に関して26のトピックに分け、そのうちひとつを「大学の学生相談室」として紹介しています。
学生相談から切り拓く大学教育実践 窪内 節子 (監修), 設樂 友崇 (編集), 高橋 寛子 (編集), 田中 健夫 (編集) 学苑社 2015年3月
学生相談室の現場から、相談事例やカウンセラーの具体的な仕事について知ることができます。