投資に役立つ心理学 3つの理論を知って防ぐ「不合理な判断」

投資には合理的な選択が求められます。不合理な行動をとってしまう心理的な原因がわかれば、対策を立てやすいものです。本稿では、投資で損をしてしまう理由を、具体的な研究の裏付けとともにお伝えします。あなたの大切な資産を守るための心理学を知り、活用してください。

※本記事は投資や特定の金融商品購入をすすめるものではありません。資産運用は自己責任でお願いします。

階段と砂時計と硬貨の写真(積立投資のイメージ)
画像出典:写真AC
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前置き:たくさん取引するから損をする

投資で多額の損失を出してしまう背景の多くに、無駄な売買をしてしまうことがあります。

投資のセオリーは「市場平均に投資し、簡単に手放さないこと」です。長期分散投資におけるパフォーマンスの高さは、「老後2,000万円問題」で話題となった金融庁の報告書しかり、多くの研究が示しています。

短い期間に多くの売買を行う短期投資には、売買手数料がかさむデメリットもあります。専門家がしのぎを削る有価証券市場で、百戦錬磨の強者たちを素人が出し抜くのは至難の技です。

長期投資のメリットを知りつつ、短期投資に手を出して失敗してしまう「投資家」は後を絶ちません。では、なぜ無駄といえるような売買を繰り返してしまうのでしょうか。次章より心理学の研究を用いて解説します。

①変化のある「条件付け」があなたから冷静さを奪う

かごに入ったマウスの写真
Peggy und Marco Lachmann-AnkeによるPixabayからの画像

ヒトはギャンブルが好きな生き物です。投資もギャンブルのような考え方で行うと近視眼的になり、余計な売買を繰り返してしまいます。このことはパフォーマンスを下げる要因になるでしょう。

ギャンブル好きの習性を持つのは人間だけありません。不安定な報酬を魅力に感じる原理は他の動物にも共通です。ハトやネズミなどを相手にした次のような動物実験が示しています。

心理学、とりわけ学習心理学の分野では「条件付け」の実験が行われてきました。例えばネズミを一匹、ある仕掛けが施されたカゴに入れます。中にあるレバーを押すと餌が出てくる仕組みです。ネズミは動き回るうちに「レバーを押すと食事にありつける」ことを学び、積極的に押するようになります。このように報酬によって行動を変化させることを「強化」と呼びます。

どのようなタイミングで餌を与えるかによって、ネズミの反応には違いが見られます。例えば、次のようなスケジュールです。

  • ①一定の間隔で与える(例:5分ごと1個)
  • ②一定のレバー押し回数ごとに与える(例:5回に1個)
  • ③時間間隔に変化を付けて与える(例:15分に3個与えるが、時間間隔はランダム)
  • ④レバー押しの回数を基準に与えるが、その回数に変化をつける。(例: レバー押し15回につき3回与えるが、回数間隔はランダム)

このうち反応を最も強化したのが、④の変動する回数ごとに餌を与えられるタイプでした。このようなタイミングを変動比率スケジュール(VRスケジュール)といいます。われわれ動物はランダムなタイミングで報酬を与えられると、それを引き起こすための行動を積極的にとるようになるのです。

変動比率スケジュールはギャンブルに似ています。報酬を与えられるタイミングが誰にもわからないからです。短期投資も同じで、たまに利益を上げるとそれが報酬として作用し、さらに取引したい衝動を駆り立てます。

長期投資は結果がすぐに現れないので、報酬による強化もありません。誤解を恐れずに書くと、長期投資は「つまらない」といえます。しかし前述のとおり、生き物としての本能に従うまま短期売買を繰り返すことは不利です。熱くなってしまいそうになったら、カゴの中のネズミを思い浮かべると冷静になれるかもしれません。

②プロスペクト理論~なぜ「赤字の株」を手放せないのか?

ギャンブルや短期投資をダメ扱いするような書き方をしてしまいましたが、節度を持って行う分には問題ないでしょう。

長期・短期どちらにとってもやっかいな心理的作用があります。損失を恐れるあまり、売るべきでないタイミングで売ってしまうことです。

長期投資の場合、含み損(買ったときよりも価格が下がっている状態)に耐えきれず売ってしまう。短期投資の場合、逆に損失を確定することを恐れて売れない。どちらも買った当初の考えと時間軸がずれてしまっています。それぞれ目的に合った金融商品を買っているにもかかわらず予定していた売却のタイミングを変えてしまっては、儲かるものも儲かりません(ちなみに、短期投資では一定の損失許容額を超えたらすぐにお金を引き上げる「損切り」を行うのがセオリーです)。

このような行動を説明できるのがプロスペクト理論です。人間は利益よりも損失を過大視する傾向にあります。短期投資のはずなのに、損をした現実を認めたくないから、ずるずると保有してしまう。長期投資のはずなのに、含み損を持つ(「このまま損失が膨らんでしまうのでは?」と思う)ストレスに耐え切れずに売ってしまう、というわけです。これらは一見すると相反する行動ですが、「現実的な利益に目を向けずに目の前の損失で頭がいっぱいになった」結果であることは共通しています。いわば軽いパニック状態です。

損失を過大評価するあまりに不合理的な行動する前に、「何を基準に、どのような時間軸を前提に金融商品を買ったのか」を思い出すとよいでしょう。

※プロスペクト理論について詳しくは「心理学の有名な3つの研究を紹介」という記事をご覧ください。https://sinkyari.com/2019/07/22/yumeinakenkyu/

③時間の効果を信じること!投資も仕事も有利に

画像出典:写真AC

長期投資とは時間を味方につけることです。少し言い方は悪いですが、 株式投資であれば、企業が時間をかけて成長していく「おこぼれ」にあずかります。国債や社債などの株式はもっとわかりやすいです。お金を一定期間貸し付ける対価として利子をもらっているわけですから。

マシュマロ・テストという有名な実験があります。子どもにお菓子を与え、「一定時間食べるのを我慢したら、もう1つあげる」と伝えます。子どもにとっては「A:今すぐ少ない量のお菓子を食べる」か「B:少し待ってもっと多くの量のお菓子をもらう」かの選択が迫られているわけです。

大人になった実験参加者を追跡調査したところ、Aを選んだ人々とBを選んだ人々の状況に違いが見られました。Bのほうが収入が多く、社会的に地位が高いとされる職業についた人の割合が多かったのです。 この結果は「我慢強い人は成功を収めやすい」ことの例としてよく引き合いに出されます。

その後、別の研究者によって検証実験がなされ、マシュマロ・テストの結果は個人のパーソナリティによる部分よりも、家庭環境の違いを原因とする可能性が高いことが示されました。

因果関係に疑問符は付いたものの、投資の結果を待てる忍耐強さと経済的成功の相関が否定された訳ではありません。「お守り」のような感覚で実験結果を思い出せば、気長に構えられるのではないでしょうか。

ゴールベース・アプローチで合理的な判断を

いろいろと不合理な行動の例を書きましたが、資産運用の心理をコントロールする体系的な方法論もあります。

その1つが、近年米国を中心に支持者を集めている「ゴールベース・アプローチ」です。日本では野村證券が積極的に取り入れています。簡単に述べると、目標を設定(「定年後は悠々自適に暮らしたい」「40歳までに家を買いたい」など)し、数値化して達成するべく預金や投資を行う方法です。

本稿の趣旨を外れてしまうので詳しくは説明しませんが、興味がある人は記事の最後に示す本「ゴールベース資産管理入門」を参照してみてください。

ゴールベース・アプローチでは、心理学を使って個人に合理的な行動を促します。伝統的に金融商品市場における価格形成の理論は、「人間はいつも瞬時かつ合理的に動く」ことを前提とした効率的市場仮説にもとづく考え方と、「人間の心の動きが市場に反映される」と考える行動ファイナンス派の2つに分かれています。この対立は、古典的な「合理的な経済人」を想定した経済学に、心理学の知見を取り入れた行動経済学が台頭してきたことに由来するものです。前掲した書籍の著者の一人であるダニエル・クロスビー氏は心理学博士号を持つ行動経済学の専門家でもあります。

資産運用あるいは経済学は、数字だけが物を言う非情な世界のように思えるかもしれません。しかし心と行動の学問である心理学を取り入れた活動は至る所で行われています。

冷静な判断をするための心理学

投資には長期的な視点を持った行動が必要です。しかし人間は「ときどき手にする利益」や「目先の損失・利益」に惑わされ、冷静な判断を失ってしまうことがよくあります。まずこのような傾向があることを意識することで、合理的な選択を生みやすくなるでしょう。

参考文献

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この記事を書いた人
佐古野 道人

ファイナンシャル・プランナー。4年制大学で心理学を専攻し、卒業後は一般企業で福利厚生や経理を担当。「傾聴力」を用いた資産運用相談が持ち味。日本FP協会所属AFP、一種証券外務員、産業カウンセラー。

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