テストや資格試験を受けるのなら「いい成績をとりたい!」と思いますよね。だけど多くの人が「勉強しても上手く記憶できない!」と悩んでいるのではないでしょうか?どうしたら勉強内容を効率的に記憶できるのでしょう?実は、心理学でそのコツが解き明かされています。本記事では、勉強に役立つ心理学をご紹介します。
記憶の仕組み
記憶するコツについて深く理解するために、まずは記憶の仕組みについて説明します。記憶には大きく分けて「長期記憶」と「短期記憶」があります。それぞれどのような特徴があるのでしょうか?
長期記憶
長期記憶とは、私たちが普段「記憶」と呼んでいるものです。友人のプロフィール、自分が住んでいる町のこと、野菜の名前…などは長い間、記憶されて忘れることはほとんどありません。長期記憶として定着しています。
長期記憶では、誰しもが膨大な量を記憶することができます。自分で「もの忘れが激しい」と思っている人でも、長期記憶の容量が小さいわけではないのです。
長期記憶は言ってみれば「図書館」のようなものです。図書館に何万冊もの本を保管しておけるのと同じように、長期記憶には膨大な量をとどめておくことができます。勉強内容を長期記憶に取り込むことができたら、テストの勝利は見えてきます!
短期記憶
短期記憶は、名前の通りたった10秒で消失する短い記憶です。例えば、どこかに電話をかけたいとき、電話をかけるまでは電話番号を覚えておくことができますが、電話を切った後にはすっかり忘れてしまいます。これが短期記憶です。短期記憶では5~9の物事を覚えられると言われています。
短期記憶と長期記憶
長期記憶と短期記憶は、例えるのなら「図書館」と「机」のようなものです。
長期記憶は「図書館」のように膨大な量を記憶できますが、用がなければ情報は収納されています。
短期記憶は「机」のように作業を遂行するときにだけ覚えています。しかし、「机」はあまり広いものではありません。「テストで結果を出せなかったらどうしよう」などの不安な気持ちがあると「机」は占領されて、普段できる作業もできなくなってしまいます。テストやプレゼンのときに「頭が真っ白になって何もできなくなってしまった」という経験はありませんか?それがまさに不安や緊張で「机」を占領されてしまった状態です。
では、勉強した内容を短期記憶から長期記憶に取り込むにはどうしたらいいのでしょうか?次の章では、そのコツについて詳しくお伝えします。
記憶するコツ1 意味付けをする【勉強が苦手な人の特徴とは?】
情報を長期記憶に定着させる手段として最も有名なのが「意味付け」です。
例えば、「2,3,5,7,11」という数字の羅列を覚えるのは大変です。もし覚えたとしても短期記憶にとどまり、長期記憶に定着させるのは難しいです。しかし、「兄(2)さん(3)来(5)な(7)い(1)~(1)」という語呂合わせを作ったり、「この数字は全て素数だ」と理解したりすれば、数字の羅列に「意味」を持たせることができます。このように意味を付けることで長期記憶に残しやすくなるのです。
記憶に関する実験を1つ紹介しましょう。この実験では「もの覚えの悪い人」の特徴も明らかになっています。
実験対象は小学生です。「学習成績の良い子」「ふつうの子」「良くない子」の3つのグループに分けて行われました。実験内容は以下の通りです。
全ての小学生に「空腹の男が車に乗った」という1文をうまく覚えられるようにするため、自由にフレーズを追加して欲しいと頼みました。そのフレーズはAとBの2タイプに分けられます。
Aタイプ:「レストランに行くために」のように、「空腹の男」と意味的関連性がある言葉
Bタイプ:「そして走り去った」のように、意味的関連性がない言葉
小学生はこの2種類のうち好きなフレーズを追加して覚えるわけです。その後、文章を思い出すことができるかどうかを試します。
結果は、以下の通りでした。
・実験結果1
全てのグループでAタイプを選んだ子のほうがBタイプを選んだ子より20%前後も多く思い出せた。
・実験結果2
Aタイプを選んだ割合は「学習成績の良い子」が70%、「良くない子」が31%だった。
実験結果1からわかる通り、意味的な関連があるフレーズを追加したほうが文章を思い出すことができます。つまり、勉強においても意味的な理解をきちんとしながら進めるほうが記憶に残りやすいのです。
実験結果2からわかるのは、「学習成績の良い子」と「良くない子」の特徴です。「学習成績の良い子」の多くは意味的な関連性があるフレーズを追加しています。日頃の学習でも意味付けを行うことで、学習内容を長期記憶にとどめているのでしょう。その結果、学習成績が良くなっているのです。
対して、「学習成績の良くない子」の多くは意味的な関連性のあるフレーズを選んでいません。日頃の学習でも意味付けを行わないために、学習内容が長期記憶に移ることなく終わってしまいやすいのでしょう。その結果、良くない学習成績となってしまうのかもしれません。
自分のことを「もの覚えが悪い」と思っている人は意味付けを意識して勉強すると成績が上がる可能性があります。
筆者は中学校で社会科教師をしていました。そのため、歴史を勉強する際におすすめしていた勉強法を3つ例として挙げます。
・1つ1つの言葉の意味を理解する
・マンガを読む
・ドラマや映画を見る
マンガや映画はストーリーを大切にしてつくられます。それを見ることで戦争や事件が起きた背景を、意味付けしながら深く捉えられます。学習内容を長期記憶にとどめておく手助けとなるのです。
これは歴史の勉強に限らず全ての勉強に使えます。今はどのような分野にもマンガで学べる参考書がたくさん出ているので、初めて勉強するときはそのような書籍から学び始めるとスムーズに勉強できるかもしれませんね。
記憶するコツ2 自分に関連付ける
記憶するコツは「意味付け」だけではありません。もっと効果を高める方法があります。それが、学習内容を「自分に関連付ける」方法です。
1977年にロジャーズが言語の記憶について実験を行いました。この実験は被験者に覚えてもらいたい単語について質問をします。質問の内容は、「形態的処理」「音韻的処理」「意味的処理」「自己関連処理」に分かれています。
たとえば、「あかるい」という単語を実験対象にしたとします。
・形態的処理は「ひらがなですか?カタカナですか?」という形に関する質問をします。
・意味的処理は「明朗と同じ意味ですか?」という意味に関する質問をします。
・自己関連処理は「あなたにあてはまりますか?」という自分に関連付ける質問をします。
実験の結果は以下の通りです。
①形態的処理をした場合が最も記憶に残らない。
②意味的処理は形態的処理の2~3倍の記憶に残る。
③自己関連処理は形態的処理の5倍以上記憶に残る。
この実験結果によって、先ほどご紹介した「意味付け」が効果的な手法であることがわかりました。しかし、それ以上に情報を自己と関連させると記憶に残りやすいことが判明しました。意味的処理と比べても2倍以上の効果が得られるため、自己関連処理の効果が絶大であることがわかります。
筆者が中学校の社会科教師をしていたとき、授業で生徒に歴史上の人物などになりきってもらうことがありました。なりきった生徒はその人物のことを忘れることがありませんでした。なりきりをせずとも、歴史上の人物に対して自分の意見を言ってみたり、その人の気持ちを自分なりに考えてみたりすることで記憶に定着しやすくなる様子も見られました。
もちろんこれは歴史に限ったことではありません。勉強内容に対して自分なりの意見を考えてみれば、どんな勉強内容でも記憶に定着しやすいです。ノートに自分のコメントを書く欄を作っておけば、この効果を活用しやすいですね。
心理学を使ってテストで成果を出しましょう
今回は、勉強に役立つ心理学テクニックをご紹介しました。勉強内容を長く記憶するためのコツは「意味付け」と「自分に関連付けること」です。どちらも今すぐ実践できることなので、ぜひ使ってみてくださいね。心理学を使ってテストで過去最高点をゲットしてしまいましょう!
参考文献
やさしい教育心理学 第5版 鎌原 雅彦・竹綱 誠一郎 (共著) 有斐閣アルマ 2019年12月