心の病気と向き合う精神科看護師の仕事。ゆっくりじっくり根気強く

精神科というと、どのようなイメージを思い浮かべますか?昔は、「鉄格子があって、なんだか暗くて怖い特別なイメージ・・・」とういう人も多かったと思います。最近はストレスを感じる人も多く、精神科病院を受診する人も増え、精神科は特殊な病院という印象は薄れてきています。中にはホテルのような癒やしの空間をイメージさせる精神科病棟もあります。とはいえ、なかなか知ることのできない精神科の世界。心のケアがメインの精神科看護師は、どのような仕事内容で、どのような特徴があるのか。元・精神科看護師が紹介します。

つらそうな患者と話しを聞く看護師
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一般的な科とは少し違う精神科看護師の仕事内容

精神科は、けがや身体的な病気ではなく心の病気にかかった人のための病院なので、心のケアがメインになります。基本的な看護業務として以下のようなものが挙げられます。

  • バイタル確認
  • 患者さんの症状や精神状態の確認
  • セルフケアの援助
  • 心のケア
  • レクリエーション、作業療法
  • 医療行為(軟こう処置や浣腸、気管吸引など)
  • 与薬管理

バイタル確認

患者さんは、自分の症状を過剰に表現したり、言葉で表せなかったりするので、日頃から状態を観察していくことが大切です。

脈拍や血圧などバイタル測定の他に、体重測定をしている病院も多くあります。精神科の患者さんは水中毒(水の飲み過ぎによって頭痛や呼吸困難などの症状が出ること)になりやすいからです。

患者さんの症状や精神状態の確認

日々の行動や言動を観察して、いつもと変わったところはないか確認します。

精神科の患者さんの中には、興奮状態にあり暴言や暴力といった行為もあるので、患者さんの安全を確保しつつ、看護師も安全確保しながら対応します。その場合、看護師ひとりで対応するのではなく、複数の看護師で患者さんを抑えたり、隔離や身体拘束などをしたりすることもあります。時には医師へ診察依頼をしたり、協力して関わったりすることが多いのでスタッフのチームワークが大切です。

セルフケアの援助

症状や精神状態により、セルフケア(自分自身の力で生活すること)のレベルが低下している患者さんも多いので支えていくことが大切です。

必要に応じて買い物の代行や同行、入院している患者さんのお金を預かり管理をすることもあります。

心のケア

コミュニケーションによる心のケアはとても重要です。精神科看護師の言動一つで、患者さんの精神状態を大きく左右することもあります。心のケアをするにあたり、大切なのが信頼関係。誰だって自分が信頼できない人には、自分の心の内をなかなか話せないですよね。精神科看護師は、相手のペースに合わせながら、焦らずゆっくりとしたコミュニケーションを心がけ「この人ならわかってくれそう」「この人なら聞いてくれそう」と思われる話しやすい空間を作っていくことが大切になります。

しかし、近過ぎる関係は依存につながってしまうので、患者さんと適切な距離で関係を築いていく必要があります。

看護師の資格を活かした心のケアの仕事についてはこちらの記事もご覧ください。

レクリエーション、作業療法

塗り絵作業中
画像出典:写真AC

生活の一部を援助していくことも精神科看護師としての役目です。その一環として、レクリエーションや作業療法を行います。目的は生活のリズムを取り戻す、自信をつける、楽しむ、何かに集中する時間を持つことなどです。

具体的には、精神科看護師が考えた簡単なレクリエーション(ぬりえやボーリングなど)なのですが、カラオケ大会やお誕生会、グループ外出などがあります。

精神科の患者さんは長期の入院になる人もいるので、季節感を感じられるようお花見、盆踊り、夏祭り、クリスマスなどの大きなイベントも行います。
レクリエーションはコミュニケーションを深めたり、そのときにしか見せない患者さんの姿を見たりできる時間でもあります。

毎週決められた曜日に、作業療法(作業をすることにより回復を目指す治療法)に参加する患者さんもいるので必要に応じて作業療法室まで送迎をします。

医療行為

精神科は他の科と比べると医療行為がとても少なく、軟こう処置や浣腸処置などが主です。

精神科で医療行為をするにあたり注意しなければいけないことは、精神的に興奮している患者さんへの対応です。
ここでもチームワークが大切です。興奮・不穏状態になった患者さんを複数の看護師で協力して注射や点滴をすることもあります。

医療行為後も油断はできません。
自己抜去してしまったり、中には点滴チューブで首つり自殺をしてしまったりする危険もあるので常に気にかけるようにします。

与薬管理

与薬の管理は重要です。精神科の治療は薬物療法が主になるからです。

病識(自分が病気であるという認識)が無い患者さんも多いので、基本的に看護師の目の前で飲んでもらうことが多いです。
舌の裏に隠したり、あとで吐き出したりしてしまう患者さんもいるので、確実に服薬してもらうために薬を飲んだ後、口の中を見せてもらいチェックすることもあります。

精神科看護師になるために必要な資格

看護学校の図書室のイラスト
画像出典:看護roo 看護師イラスト集

精神科で看護師として働くには、准看護師又は正看護師の資格が必要です。

准看護師は、中学校または高校卒業後、准看護師養成学校に2年間通い、その後、各都道府県で実施される准看護師試験に合格することでなれます。学校により、午後や夜間に授業を行っている学校もあり、働きながら勉強している人も多い傾向にあります。

正看護師になるには、高校卒業後、看護大学または看護専門学校に3~4年通い、その後、看護師国家試験に合格する必要があります。

仕事内容は、准看護師も正看護師も変わりませんが、准看護師は医師や正看護師の指示のもと仕事をします。

精神科看護の専門的な資格もあります。精神看護専門看護師(公益社団法人日本看護協会)と精神科認定看護師(一般社団法人日本精神科看護協会)です。高い専門性を証明するためのものであり、実務経験が無ければ受験できません。精神科看護師として働くために必須ではありませんが、就職後にスキルアップを目指していくにあたって、目標のひとつになるでしょう。

精神科看護師の魅力

精神科看護師として実際に働いた経験から、やりがいや待遇、持つべき心構えなどをお伝えします。

じっくりと関わっていく奥深さが、やりがいにつながる

患者さんが見ている世界、感じている世界にどのように関わっていくかが大きなテーマとなります。

その人それぞれ感じている世界には必ず理由があり、その部分に時間をかけて関わっていけるのが精神科看護師の魅力的な部分に感じます。

目に見えない心の部分だからこそ奥深くて難しい。だけど、時間をかけてじっくり患者さんと関わっていくうちに信頼関係を築いていくと見えてくるものがあります。患者さんが閉ざしていた心の奥にある自分の本当の気持ちを出して、少しずつ回復して本来の自然な笑顔になっていく姿をサポートしていけるところが、この仕事の奥深さでもあると思います。

ありとあらゆる方法で死のうとする患者に対応する大変さ

はさみを思い浮かべ冷や汗をかきながら電話する医師
画像出典:いらすとや等のイラストを用いて編集部作成

精神科病院では、患者さんの予想外の行動は日常的にあり、普段予想しないことがおこります。突然怒ったり、暴力を振るってきたり、時には排せつ物を投げてくる患者さんもいます。興奮状態の患者さんや他の患者さんの安全にも配慮すること、そして自分の身を自分で守ることが大切になります。

患者さんの自殺を防ぐことも、とても重要な役割です。患者さんは私たちが想像つかない、ありとあらゆる方法で死のうとします。常日頃、患者さんの状態を観察して普段と違う言動や行動は無いか、周りに危険なものは無いか気にかけることが大切になります。

精神科は、物品や持ち物管理も重要なポイントです。特に危険物の管理は、命にかかわることもあるのでとても重要になり、病棟のはさみ1つ無いだけでも大変です。看護師の置き忘れた物1つで、重大なインシデント(事故になりかねない状況)につながることもあるので注意が必要です。

職場によっては危険手当がつくことも

特殊なイメージを持たれやすい精神科の看護師は、どのくらいの給料をもらっているのでしょうか。

結論から話しますと、一般的な病院に勤めている看護師の給料と同じぐらいです。ただ、精神科は患者さんから暴力や危険行為を受けるリスクがあるため「危険手当(特別手当)」が付いているところもあります。

「危険手当」とは、看護職の職務上、危険や危害がおよぶ可能性が高い場合に支給される手当のことで、全ての病院で支給されているわけではありません。クリニックやデイケアなどの慢性期では少ない傾向にあります。

危険行為や興奮状態の患者さんの対応をすることが多いので、男性看護師が多く活躍しやすいのも精神科病院の特徴ともいえます。

精神科は業務時間内に仕事が終わることが多いです。他の科に比べて急変が少なく、急性期病棟を除いて急な入院が少ないからです。

精神科看護師として働く上での心構え

精神科看護師は、目に見えない心の部分と向き合っていくので、ゆっくりじっくり患者さんと向き合っていく心が大切です。

そして、心無い言葉で攻めたててくる患者さんもいるので、自分自身も精神的に強い心を持つことも大切なポイントになります。自分自身の心が疲れていては、相手の心のケアをする余裕なんてなくなっちゃいますよね。自分軸をしっかり持って、相手に巻き込まれない強さと冷静さで患者さんの心のケアをしていきます。

最後に観察力。
患者さんの思いを引き出すコミュニケーション能力がある事も大切なポイントになります。

自分の心も磨かれていく精神科看護師

残業は少なく急変が少ない精神科は、プライベートの時間も取りやすく、日々の看護処置などに追われずじっくりと患者さんと関われるところが魅力なのではないでしょうか。

患者さんの心をサポートしながら、自分の心も磨かれていく精神科看護師。
ストレスの多いこの世の中でますます需要が高まりそうです。

この記事を書いた人
香西浬希(こうざい りの)

元精神科ナースの開業カウンセラー&占い師。HSP(周囲の刺激に敏感な人)で小さい頃から自分を出せずに苦しむが、さまざまなコーチングやカウンセリングなどの講座を受けて克服。関連する多くの資格を持つ。

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