ライフスタイルや社会生活が大きく変化した2020年。生活や仕事のことで、不安やストレスを感じている方も多く、心のケアが重要視されています。身体の健康はもちろんのこと、心の健康にも目を向けていくことが大切な時代となってきています。今回は看護師の資格を活かしたメンタルヘルス関連の仕事はどのようなものがあるか紹介します。
メンタル不調を防止するストレスチェック制度
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法が改正されてできた制度です。2015年12月より、労働者がメンタルの不調になる事を未然に防止する目的で導入されました。労働者が50人以上いる職場で、毎年1回労働者に対して実施することが義務付けられています。看護師や保健師は、このストレスチェックの担当者になれる可能性があります。
自分のストレスに気付くことができるストレスチェック
ストレスチェックは、ストレスに関する質問表(選択回答)に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査です。
「厚生労働省 ストレスチェック制度 導入ガイド」より引用
ストレスは自分で気が付かないうちにたまり、気が付いたときには精神疾患の発症につながってしまうケースも多くあります。定期的にストレスチックをすることにより、自分で自分のストレスに気付き、早めにセルフケアしていくことができます。
また、職場や部署ごとに集団分析することにより、仕事や職場環境に強いストレスがないか確認でき、働きやすい職場環境の改善につながっていくことが期待できます。
人から見たら「それぐらいで・・・」と思うことも、人それぞれストレスを感じる度合いは違うもの。早期に自分のストレスに気付くことが大切なポイントになります。
実施者には厳重な守秘義務、観察力・カウンセリング力が求められる
ストレスチェックの実施者になれるのは「医師、保健師、または厚生労働大臣が定める研修を修了した人」です。実施者の主な役割として以下の3つがあります。
① 事業者がストレスチェックに用いる調査票を決定するとき、専門的な立場から助言をする。
② ストレスチェックの結果、ストレスを感じる自覚症状が高い人、周囲のサポートが著しく悪くストレスの原因になっている人に対して、提案や助言、確認などを行う。
職場によって労働環境が違ってくるので会社側にも確認し、できるだけストレスを軽減できるようにする。
③ 医師の面接指導が必要か判断し、必要な場合に受けるようすすめる。
結果は実施者から、直接本人に通知されます。本人の同意がないと事業者に通知されることはありません。本音の気持ちを安心して出して、受けてもらう環境を提供することも大切な役割となります。
参考文献
厚生労働省 ストレスチェック制度 導入ガイド
厚生労働省 ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル
研修を受ければ看護師もストレスチェックの実施者になれる
看護師も厚生労働大臣が定める研修を受け、検査を行うために必要な知識を学べば実施者となることができます。研修は厚生労働大臣の指定を受けた企業・団体が主催しています。座学を中心とした研修で、だいたい1日程度で終了し受講証明書が発行されます。
2015年11月30日(改正労働安全法施行日の前日)までに、3年以上労働者の健康管理などの業務に従事した経験がある場合、研修を受けなくても実施者になることができます。
参考文献
看護師としてメンタル系の職場で働く
メンタルに重点をおいた看護の職場として3つ紹介します。
精神科
精神科は、心が病気の人を対象にしたところです。代表的な病気として、うつ病、統合失調症などがあり、不眠や不安、幻覚や妄想といった症状が多く訴えられます。心のケアはもちろん、患者さんの精神状態を敏感に感じとる観察力が求められます。ゆっくり辛抱強く、患者さんがみている世界にどう関わっていくか大きなテーマとなってきます。
日本看護協会では、特定分野の専門技能を持った看護師として「専門看護師」を認定しています。精神疾患患者に対応する分野として「精神看護」が定められています。さらなるキャリアアップを目指してみてはいかがでしょうか。
精神科看護師の詳しい仕事内容についてはこちらの記事をご覧ください。
心療内科
心療内科は、強い緊張やストレスなどが原因で身体に不調が出た人を対象にしたところです。代表的な病気として、自律神経失調症、心身症があり、胃腸障害などがみられます。身体の不調があらわれる原因に、今の生活環境と深く関係していることがあるので、その人に合った生活指導を行うことも大切な役割です。
「精神科は抵抗があるから、まずは心療内科から・・・」と勇気を持って受診される患者さんも少なくありません。初めに患者さんと関わる看護師が、常に患者さんの気持ちに配慮しながら、安心感を与えることが大切です。
緩和ケア
緩和ケアは、生命を脅かす疾患を抱える患者さんとその家族が対象になります。
治療や医療行為を積極的に行わず、4つの苦痛(身体的、精神的、社会的、スピリチュアル)を緩和して、生活の質を改善していくことを目的とします。
患者さんや家族に、親身に寄り添い、痛みや苦痛の症状をできるだけやわらげ、最期までその人らしくいられることを尊重してくことが大切になります。
緩和ケアは「認定看護師」の一分野として定められています。認定看護師も専門的な技能を持つことを証明する資格ですが、専門看護師とは必要な教育の受け方や対象となる分野などが異なります。こちらもメンタル系のスキルを持った看護師として専門性を高めていくことができるでしょう。
「看護師」と「公認心理師」ダブルライセンスを強みにする
2017年、「公認心理師」という日本初の心理系国家資格ができました。
心理学の専門知識をもつ公認心理師の仕事とは
公認心理師は、心理学に関する専門知識・技術を持ち、心に問題を抱える人やその周囲の関係ある人に対して相談、助言、援助をおこなう仕事です。他に、心の健康についての知識を広めるために教育、情報を提供していくことも求められています。
心理職初めての国家資格は「公認心理師」の強み
公認心理師資格は、心理職の国家資格として社会的信用が得られます。医療の現場では、診療報酬の対象になってくると考えられ、心理検査やカウンセリングが保険点数に入ることが考えられます。
そうなることにより、医療現場で心のケアが充実し、公認心理師の需要も増え働く職場が広っていく事が予想されます。カウンセラーとして開業する場合も、社会的信用が得られ心理職として自信をもって伝えていけると思います。
看護師は特例措置+現任者講習を受けることで公認心理師の資格を取得できる
看護師が公認心理師の資格を取得する場合、「特例措置」の方法が認められ、現任者講習を受けることにより受験資格を得られる可能性があります。(特例措置は、2022年9月までの限定した方法)
特例措置にあてはまる条件として下記を満たしていることが必要です。
- 2017年9月15日時点で実務を開始しており、5年以上の経験があること
- 文部科学省や厚生労働省が定める特定の施設(学校、保健センター、病院、診療所)で働いた経験があること
- 実務経験として公認心理師法で定められた①~③の業務を行っていたこと
① 心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
① ~③ 厚生労働省 公認心理師より引用
② 心理に関する支援を要する者に対するその心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
③ 心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他援助
精神科や看護師として実務経験があっても、①~③に当てはまらない場合、受験資格として認められないので注意してください。
次に現任者講習を受講します。機関によって先着順などすぐ受講できない場合があるので、厚生労働省 公認心理師現任者講習のページをチェックしておくようにすると安心です。これらの条件をクリアすることで、公認心理師の受験資格を得る事ができます。
(参考)
厚生労働省 公認心理師現任者講習会
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11724.html
看護とメンタルヘルス両面からケアできる看護師の誕生に期待
看護師というと病院で働くイメージが多いと思いますが、メンタルの需要が高まってきた現在では職場の幅も広がってきています。医療現場を離れ、新たな看護師としての職場も広がっていきそうです。看護の知識を持ち、メンタルケアについても深い知識がある看護師が増えていくと安心感が高まります。ストレスが多い世の中ですが、心も身体も安心してゆだねられる看護師が多く誕生することを期待しています。