「福祉心理学」では、どんなことを学ぶのでしょうか。名前からは、福祉施設でカウンセリングをするための学問を想像するかもしれません。実際には、支援を必要とする人の気持ちや行動を、家族関係、生活環境、社会の制度とも結びつけて考えます。
この記事では、福祉心理学で学ぶ内容を整理し、社会福祉・臨床心理学との違いを説明します。高齢者への相談支援を例に、仕事で役立つ場面と、関連する資格への学び方も見ていきましょう。
福祉心理学とは、生活上の困難を心理と環境から考える分野
福祉心理学は、福祉の現場で生じる問題とその背景を理解し、必要な心理的支援を考える学習分野です。個人の感情や行動だけでなく、暮らしの条件にも目を向けます。なお、「福祉心理学」という名称の国家資格があるわけではありません。
例えば、高齢者が介護サービスの利用をためらっているとします。「支援が必要だと理解していない」と決めつけることはできません。費用への心配、知らない人を家に迎える不安、これまで自分で生活を営んできた誇りなど、理由は人によって異なります。移動手段や家族との距離も選択に影響します。本人に確かめながら、気持ちと生活上の条件を一緒に考えることが大切です。
公認心理師の養成に関する厚生労働省の「公認心理師となるために必要な科目の確認について」では、「福祉心理学」に含まれる事項として、福祉現場で生じる問題とその背景、心理社会的課題と必要な支援、虐待についての基本的知識を挙げています。ここでいう「心理社会的」とは、心の状態と、対人関係や社会生活の条件が関わり合うという意味です。
福祉心理学では何を学ぶ?
福祉心理学の対象は一つの年代や施設に限られません。まず支援を必要とする人を理解し、次にその人が暮らす環境と支援のあり方を考えます。
子ども・障害のある人・高齢者などの心理
子どもの成長や家庭での暮らし、障害のある人の生活、高齢期の変化など、福祉の現場には異なる課題があります。例えば同じ「外出を嫌がる」という行動でも、外出先への不安、体力の変化、周囲との関係など、確かめるべきことは違います。年齢や診断名だけで、困りごとの原因や本人の望みを決めることはできません。
学ぶ際には、発達心理学や障害者・障害児心理学などの知識も手がかりになります。ただし、心理学の概念を覚えるだけでは支援は決まりません。本人が何に困り、何を望み、今どのような生活をしているのかを確かめる必要があります。
発達・家族・生活環境を合わせて捉える
支援を考えるときは、本人の状態、家族など身近な人との関係、住まいや地域の環境を見渡します。一人暮らしの高齢者が買い物に行きにくくなった場合も、気力だけの問題とは限りません。膝の痛み、店までの距離、公共交通の使いやすさ、頼れる人の有無によって、必要な支援は変わります。
厚生労働省の「地域包括ケアシステム」は、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるため、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に考える方向を示しています。心理を学ぶ人にとっても、「どんな気持ちか」と「暮らしを支える条件は何か」を切り離さないための手がかりになります。

本人の意思と権利を尊重して支援する
支援者が安全だと思う方法と、本人が希望する暮らし方が一致しないことがあります。そのときは、本人が何を大切にしているかを聞き、選択肢を理解しやすい形で伝えます。本人が断った理由を尋ねることと、断った本人を責めることは違います。
意思決定支援とは、本人が自分の生活について意思を表し、選ぶために、情報の伝え方や話しやすい環境を整えることです。これは福祉の実践に関わる考え方であり、福祉心理学に固有の理論ではありません。心理学を学ぶ人にとっては、本人の言動から気持ちを決めつけず、考えや希望を確かめる姿勢につながります。ただし、一般的な心理学の知識だけで、本人の判断能力や具体的な対応を決めることはできません。
社会福祉・臨床心理学とはどう違う?
三つは扱う問題が重なるため、明確な境界線で分けるより、主に何へ注目するかで整理すると分かりやすくなります。以下は学びを見渡すための目安です。職種ごとの独占業務を示す表ではありません。
| 分野 | 主に注目すること | 高齢者の相談での問いの例 |
|---|---|---|
| 福祉心理学 | 福祉の場で生じる心理社会的課題と支援 | 「本人は何を不安に感じ、どんな暮らしを望んでいるか」 |
| 社会福祉 | 生活課題への相談援助、制度や地域の資源との接続 | 「利用できるサービスや相談先は何か」 |
| 臨床心理学 | 心理的な困難の理解、評価、心理的支援 | 「不安や落ち込みをどう理解し、支援するか」 |
例えば、訪問を断る高齢者について、心理的な理由を理解するだけでは、買い物に行く手段は生まれません。一方、利用可能なサービスを案内するだけでは、本人の不安や希望に十分応えられないかもしれません。現場ではそれぞれの視点を組み合わせます。臨床心理学を学ぶ人も生活環境を確認しますし、社会福祉職も本人の気持ちを聴きます。
福祉心理学は支援の現場でどう役立つ?
ここでは、一人暮らしの高齢者への相談を例にします。以下は考え方を説明するための架空例であり、実在の支援事例ではありません。
例:一人暮らしの高齢者が支援を断るとき、どう考えるか
近所に住む家族が、父親の暮らしを心配して相談したとします。父親は以前より買い物に出る回数が減りました。しかし、本人は「まだ人の世話にはなりたくない」と話しています。
最初から「サービスを使わないことが問題だ」と結論づけず、まず生活の様子を確認します。食事や買い物で実際に困っていることは何か。本人は今の生活のどこを守りたいのか。「人の世話」の何が気になるのか。費用、プライバシー、知らない人との接触など、考えられる理由はありますが、本人の答えを聞く前に理由を確定しません。
次に、家族が心配していることと本人の希望を、それぞれ区別して整理します。「自分で買い物を続けたい」という希望があれば、どの部分は自分ででき、どの部分に助けが必要かを一緒に考えられます。サービスを利用する場合も、内容や頻度を本人に説明し、気がかりを確かめます。こうした順序は、本人を説得するためではなく、納得して選べる条件を整えるための提案です。
厚生労働省の「地域包括ケアシステム」の「地域包括支援センターについて」によると、同センターは高齢者の総合相談、権利擁護、地域の支援体制づくり、介護予防に必要な援助などを担います。この例は、そうした相談で心理面に目を向ける意義を説明するものであり、すべてのセンターで同じ手順を取るという意味ではありません。

心理職だけで完結しない、多職種との連携
買い物の困難には、身体の状態や交通事情も関係するかもしれません。心理的な不安が強ければ、その理解や支援が必要になることもあります。一人の職種がすべてを判断するのではなく、地域包括支援センターの担当者、医療職、介護職、家族などが、それぞれの役割に応じて考えます。
情報共有では、本人の意向やプライバシーに配慮します。家族からの相談を受けたことと、本人の意思を確認できたことも同じではありません。福祉心理学を学ぶ価値は、本人を理解する視点を持ちながら、支援の範囲と他職種との協働を考えられる点にあります。
福祉心理学に関わる仕事と資格
福祉心理学は学習分野であり、履修しただけで特定の資格が得られるわけではありません。心理的支援を専門とする仕事と、生活全体の相談援助を担う仕事では、必要な養成課程や採用条件が異なります。
福祉分野で働く公認心理師
公認心理師は、心理学の専門知識と技術を用いる国家資格です。厚生労働省の「公認心理師」の制度案内では、福祉を含む分野で、支援を要する人の心理状態の観察・分析、本人や関係者への相談・助言などを行うと説明しています。福祉分野でも、実際の業務は勤務先や担当する人によって異なります。
これから資格を目指す場合の代表的な道筋は、大学で所定の科目を学び、大学院で所定の科目を修めるルートです。大学卒業後、指定された施設で定められた期間の実務経験を積むルートなどもあります。福祉心理学を一科目履修するだけで受験資格が得られるわけではありません。進学先を選ぶ際には、大学名だけでなく、入学年度に適用される科目、実習、卒業後のルートを確認してください。厚生労働省は同じ「公認心理師」の制度案内で受験資格取得方法と必要な科目を開講する大学等の一覧を示しています。
児童心理司と福祉現場の支援職
児童心理司は、児童相談所などで子どもの心理面の理解や支援に関わる職です。「公認心理師」とは異なり、職の名称です。心理面の評価や面接など、担当する業務と任用条件は所属先の資料で確認する必要があります。児童分野に進みたい人は、公認心理師の受験資格と自治体の採用要件を分けて調べましょう。
一方、福祉施設などの支援職は、日々の生活や活動を支え、本人の様子を観察し、関係者と連携します。心理学の知識は理解の助けになりますが、心理検査や心理療法をその職種全体の業務として一括りにはできません。職場ごとの職務内容と必要資格を確認することが大切です。
社会福祉士・精神保健福祉士との接点
社会福祉士は、生活上の困りごとについて相談援助に関わる国家資格です。精神保健福祉士は、精神保健福祉に関する相談援助を担う国家資格です。いずれも、公認心理師とは別の資格です。資格取得には、それぞれに定められた養成課程や受験資格があり、心理学科の卒業だけで取得できるものではありません。
例えば、高齢者の相談では、心理的な不安を理解する視点と、制度・サービスにつなぐ知識の両方が役立ちます。心理職と福祉職のどちらに関心があるか迷うなら、「主に心理面の評価や支援に携わりたいか」「生活課題への相談援助や制度との接続に携わりたいか」を一つの手がかりにできます。実際の仕事は重なりますので、大学の履修科目だけでなく、現場の業務と採用条件も見比べてください。
大学で福祉心理学を学ぶ際に注目したいこと
授業名が「福祉心理学」でも、扱う事例や重点は大学によって異なります。シラバスでは、児童・障害・高齢者のどの領域を扱うか、虐待や権利擁護にどう触れるか、心理面と制度・生活環境を結びつけて学べるかを確認しましょう。
公認心理師を目指す場合は、その授業だけで判断せず、必要科目全体と実習の機会を確認します。厚生労働省の「公認心理師となるために必要な科目の確認について」には、福祉心理学の学習内容に加え、心理演習や心理実習に関する事項も掲載されています。福祉の現場に関心が強ければ、社会福祉の制度、発達、高齢期、障害についても学べるかを見ると、科目同士のつながりが見えてきます。
まとめ
福祉心理学は、福祉の現場で生じる問題を、本人の気持ちや行動と、家族・地域・生活環境との関係から考える分野です。高齢者が支援を断る場面でも、理由を決めつけず、本人の望みと現実の困りごとを確認する視点が役立ちます。
仕事や進路を考える際には、福祉心理学という科目で何を学べるかに加え、目指す職種の業務、資格の取得ルート、実習の機会をそれぞれ確かめましょう。
参考文献・参考資料
- 厚生労働省「公認心理師となるために必要な科目の確認について」https://www.mhlw.go.jp/content/001670878.pdf
- 厚生労働省「公認心理師」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116049.html
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/

