「学習心理学」という言葉から、効率的な勉強法を研究する心理学を想像する人もいるのではないでしょうか。
しかし、心理学でいう「学習」は、学校の勉強だけを意味するものではありません。経験によって新しい行動を身につけたり、これまでの行動が変化したりすることを広く指します。
例えば、練習して自転車に乗れるようになることも、失敗した経験から特定の行動を避けるようになることも、心理学では学習として捉えられます。
学習心理学は、このような行動の獲得や変化が、どのような仕組みで起こるのかを研究する分野です。その知見は、教育、心理支援、児童福祉、職場での人材育成などにも応用されています。
この記事では、学習心理学の基本的な考え方と代表的な理論を、身近な例から解説します。さらに、人の行動を理解するときに、学習心理学がどのような視点を与えてくれるのかも考えていきます。
学習心理学とは、経験による行動の変化を研究する心理学
学習心理学とは、人や動物の行動が経験によってどのように獲得され、変化するのかを研究する心理学です。心理学を大きく基礎心理学と応用心理学に分けた場合、学習心理学は基礎心理学に位置づけられます。
日本心理学会は、心理学における学習を「経験によって生じる比較的永続的な行動の変化」と説明しています。
ここで重要なのは、次の3点です。
- 経験によって生じる
- 行動や反応に変化が現れる
- 変化が一時的なものではなく、ある程度持続する
新しい行動が増えることだけが学習ではありません。ある経験の後で、それまで行っていた行動をしなくなることも学習に含まれます。
例えば、料理を練習して包丁を上手に扱えるようになることは、経験による行動の変化です。一方、寝不足で一時的に作業が遅くなった場合は、疲労が回復すれば元に戻るため、通常は学習による変化とは考えません。
学習に当たる変化と、当たらない変化
行動が変化したからといって、すべてが心理学上の学習に当たるわけではありません。
| 変化 | 学習に当たるか | 理由 |
|---|---|---|
| 練習して自転車に乗れるようになる | 当たる | 経験によって比較的持続する行動の変化が生じている |
| 叱られた場所を避けるようになる | 当たる | 経験によって、その後の行動が変化している |
| 熱いものに触れて手を引く | それ自体は当たらない | 生得的な反射による反応である |
| 疲れて集中できなくなる | 通常は当たらない | 疲労による一時的な変化である |
| 成長にともなって歩けるようになる | 単純にはいえない | 成熟と経験の両方が関係するためである |
発達や成熟と学習は、現実には完全に切り離せない場合があります。例えば、歩行の獲得には身体的な成熟だけでなく、周囲の環境や練習も関係します。
したがって、「学習か、学習ではないか」を機械的に二分するのではなく、変化に経験がどの程度関係しているかを考える必要があります。
学習心理学はどのように発展したのか
学習心理学の発展には、多くの研究者が関わっています。ここでは、代表的な理論を理解するうえで重要な研究者を紹介します。
ソーンダイクと効果の法則
アメリカの心理学者エドワード・ソーンダイクは、問題箱と呼ばれる装置にネコを入れ、箱から脱出するまでの行動を研究しました。
ネコは最初から脱出方法を理解していたわけではありません。箱の中でさまざまな行動を試し、偶然、扉を開ける仕掛けを作動させます。経験を重ねると、脱出までにかかる時間が次第に短くなりました。
ソーンダイクは、満足をもたらす結果が生じた行動は、その後も繰り返されやすくなると考えました。これは「効果の法則」と呼ばれ、後のオペラント条件づけにつながる考え方となりました。
パブロフと古典的条件づけ
ロシアの生理学者イワン・パブロフは、犬の唾液分泌を研究する過程で、経験によって新しい反応が形成される現象を明らかにしました。
犬は食べ物を口にすると、自然に唾液を出します。そこで、特定の音を聞かせた後に食べ物を与えることを繰り返します。すると、やがて犬は食べ物がなくても、その音を聞いただけで唾液を出すようになります。
このように、もともとは特定の反応を引き起こさなかった刺激が、別の刺激と結びつくことで反応を引き起こすようになることを、古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)といいます。
ワトソンと行動主義
アメリカの心理学者ジョン・ワトソンは、外から直接観察することが難しい意識よりも、客観的に観察できる行動を心理学の研究対象として重視しました。
この立場は行動主義と呼ばれます。行動主義の発展によって、どのような刺激や環境条件のもとで行動が生じるのかを、実験によって検討する研究が進みました。
ただし、行動主義と学習心理学は完全な同義語ではありません。また、現在の学習研究では、行動だけでなく認知などの働きも扱われています。
スキナーとオペラント条件づけ
アメリカの心理学者バラス・スキナーは、行動の後に生じる結果と、その後の行動の変化との関係を研究しました。
ある行動の後に、その人や動物にとって好ましい結果が生じれば、その行動は再び行われやすくなることがあります。反対に、行動の後に生じた結果によって、その行動が減ることもあります。
このように、行動とその結果との関係によって行動の頻度が変化することを、オペラント条件づけといいます。
学習心理学を理解する3つの基本理論
学習心理学には多くの理論があります。なかでも基本となるのが、古典的条件づけ、オペラント条件づけ、観察学習です。
古典的条件づけ――刺激と刺激の結びつきを学習する
古典的条件づけは、ある刺激と別の刺激との関係を経験することで、新しい反応が形成される学習です。
パブロフの犬の例を、心理学用語を使って整理してみましょう。
食べ物は、学習をしなくても犬の唾液分泌を引き起こします。このような刺激を「無条件刺激」、それによって自然に起こる唾液分泌を「無条件反応」といいます。
条件づけを行う前の音は、それだけでは唾液分泌を引き起こしません。ところが、音を聞かせた後に食べ物を与えることを繰り返すと、音だけで唾液が出るようになります。
この段階では、音が「条件刺激」、音によって生じる唾液分泌が「条件反応」です。
| 段階 | 提示される刺激 | 犬の反応 |
|---|---|---|
| 条件づけ前 | 食べ物 | 唾液が出る |
| 条件づけ中 | 音の後に食べ物を提示する | 唾液が出る |
| 条件づけ後 | 音だけを提示する | 唾液が出る |
条件刺激だけで条件反応が起こるようになる過程を「獲得」といいます。
その後、食べ物を与えずに音だけを繰り返し聞かせると、音に対する唾液反応は次第に弱くなります。これが「消去」です。ただし、消去は、いったん成立した学習が記憶から完全に消えることと同じではありません。

古典的条件づけは日常生活にも現れる
古典的条件づけは、実験室の中だけで起こる現象ではありません。
例えば、ある食べ物を口にした後で強い吐き気を経験すると、その食べ物を見たり、においを嗅いだりしただけで嫌悪感を覚えるようになることがあります。これは味覚嫌悪学習と呼ばれる現象です。
歯科治療で痛みを経験した後、治療室のにおいや機械音に触れただけで緊張する場合も、古典的条件づけの考え方から検討できます。
広告で商品と好ましい音楽や人物が一緒に示されることも、商品に肯定的な感情を結びつけようとする例として説明されることがあります。
ただし、特定の場所で緊張する理由や、商品を購入する理由が、すべて古典的条件づけで説明できるわけではありません。実際の行動には、過去の経験、考え方、その場の状況など、複数の要因が関係します。
オペラント条件づけ――行動は結果によって変化する
オペラント条件づけでは、ある行動の後に生じる結果が、その行動の将来的な起こりやすさに影響します。
例えば、子どもが挨拶をした後に周囲から肯定的な反応を受け、挨拶をすることが増えたとします。この場合、肯定的な反応が、挨拶という行動を増やす結果として機能したと考えられます。
行動が増えることを「強化」、行動が減ることを「弱化」または「罰」といいます。
さらに「正」と「負」という区別があります。ただし、ここでいう正と負は、よいことと悪いことを意味するのではありません。
- 正:何らかの刺激を加える
- 負:何らかの刺激を取り除く
これらを組み合わせると、次の4種類になります。
| 分類 | 行動の後に起こること | 行動の変化 |
|---|---|---|
| 正の強化 | 刺激が加わる | 行動が増える |
| 負の強化 | 刺激が取り除かれる | 行動が増える |
| 正の弱化 | 刺激が加わる | 行動が減る |
| 負の弱化 | 刺激が取り除かれる | 行動が減る |
例えば、課題を終えた後に好きな活動ができるようになり、課題に取り組む行動が増えた場合は、正の強化として説明できます。
車のシートベルトを締めると警告音が止まり、その結果としてシートベルトを締める行動が増える場合は、負の強化に当たります。不快な刺激である警告音が取り除かれることによって、行動が増えているからです。
負の強化は、叱ったり罰を与えたりすることではありません。「行動が増えた」という点では、正の強化と共通しています。
「褒めること」と「強化」は同じではない
日常会話では、子どもや部下を褒めることを「行動を強化する」と表現することがあります。しかし、心理学上は、褒めただけで必ず強化になるわけではありません。
強化かどうかは、その後に対象となる行動が増えたかによって判断します。
例えば、子どもが片づけをした後に大人が褒め、その後、片づける行動が増えた場合は、褒めることが強化として機能したと考えられます。一方、同じように褒めても行動が増えなかった場合、その褒め方は少なくとも当該場面では強化子として機能しなかった可能性があります。
何を好ましいと感じるかは人によって異なります。大勢の前で褒められることをうれしいと感じる人もいれば、注目を集めることを負担に感じる人もいます。
支援者が「褒めたつもりだったか」ではなく、その後の行動がどのように変化したかを見ることが大切です。
観察学習――他者の行動を見て学ぶ
自分が直接経験しなくても、他者の行動を観察することで、新しい行動を学ぶことがあります。これを観察学習といいます。
観察学習の研究で知られるのが、カナダ出身の心理学者アルバート・バンデューラです。
例えば、新入社員が先輩の接客を見て言葉遣いや対応方法を学ぶことや、子どもが大人の挨拶を見て同じように振る舞うことは、観察学習の例として考えられます。
観察した行動が実際に行われるまでには、主に次の過程が関係すると説明されています。
- 注意:モデルとなる人の行動に注意を向ける
- 保持:観察した内容を記憶にとどめる
- 再生:記憶した行動を実際に行う
- 動機づけ:その行動を実行しようとする理由がある
他者の行動を目にしただけで、必ず同じ行動をするわけではありません。モデルへの注意、記憶、行動を再現する能力、行動する動機などが関係します。
古典的条件づけ・オペラント条件づけ・観察学習の違い
3つの学習を整理すると、中心的な違いは次のようになります。
| 理論 | 主に学習される関係 | 行動や反応の特徴 | 例 |
|---|---|---|---|
| 古典的条件づけ | 刺激と刺激の関係 | 反射的、生理的、情動的な反応を中心に扱う | 治療室に入ると緊張する |
| オペラント条件づけ | 行動とその結果の関係 | 結果によって行動の頻度が変化する | 肯定的な反応を受けて挨拶が増える |
| 観察学習 | 他者の行動やその結果 | 他者を観察して行動を学ぶ | 先輩の接客方法をまねる |
古典的条件づけを「受動的な学習」、オペラント条件づけを「能動的な学習」と説明することもあります。しかし、それだけでは両者の違いを正確に理解しにくい場合があります。
古典的条件づけでは刺激同士の関係が中心となり、オペラント条件づけでは行動と結果の関係が中心になる、と整理すると区別しやすくなります。
学習心理学と教育心理学・認知心理学の違い
学習心理学と関係の深い分野に、教育心理学と認知心理学があります。これらは研究対象が重なることもありますが、それぞれ中心的な関心が異なります。
教育心理学との違い
教育心理学は、教育場面における発達、学習、動機づけ、指導、評価などを広く研究する分野です。
学習心理学で明らかにされた強化やフィードバックの仕組みは、教育場面にも応用されます。そのため、学習心理学は教育心理学と深い関係がありますが、両者は同じ分野ではありません。
学習心理学は、学校教育に限らず、人や動物の行動が経験によって変化する基本的な仕組みを研究します。これに対し、教育心理学では、主として教育に関係する問題を対象にします。
教育心理学についてはこちらの記事「教育心理学」を知りたいあなたへ 押さえておきたいポイント3つも参考にしてください。
認知心理学との違い
認知心理学は、人が外界から得た情報をどのように受け取り、記憶し、考え、判断するのかを研究する分野です。
注意、記憶、思考、判断などが代表的な研究対象です。一方、学習心理学では、経験によって行動がどのように獲得され、変化するのかを中心に研究します。
ただし、学習には記憶や認知も関係します。現在の心理学では、それぞれの分野を完全に分離できるわけではありません。
教育心理学についてはこちらの記事認知心理学の基本的な考え方と研究対象も参考にしてください。
学習心理学は勉強法の心理学なのか
学習心理学は、学校の勉強だけを扱う心理学ではありません。ただし、その知見を勉強へ応用することはできます。
例えば、勉強を始めた後に達成感を得られる仕組みをつくることや、学習行動に対して適切なフィードバックを行うことは、オペラント条件づけと関係します。人の解き方を観察して学ぶことは、観察学習と関係します。
一方、記憶を定着させる方法や、学んだ内容の理解を深める方法は、認知心理学や教育心理学とも密接に関係します。
「学習心理学を知れば効率的な勉強法がすべて分かる」と捉えるのではなく、複数の心理学領域が勉強に関係していると考える方が適切です。
勉強法についてはこちらの記事勉強に役立つ心理学!歴史人物になりきって成績UPも参考にしてください。
学習心理学は、人の行動の見方をどう変えるのか
学習心理学を知ると、ある行動をすぐに「性格」「やる気」「意志の弱さ」の問題として片づけず、その行動の前後にある経験や環境を検討できるようになります。
例えば、子どもが課題をなかなか始めない場面を考えてみましょう。
その行動だけを見れば、「やる気がない」「面倒くさがっている」と評価したくなるかもしれません。しかし、次のような可能性も考えられます。
- 課題が本人にとって難しすぎる
- 過去に失敗したり、叱られたりした経験がある
- 課題を始めなければ、不安な状況を避けられる
- 課題へ取り組んでも、達成感や周囲からの反応を得られない
- 何から始めればよいか分からない
もちろん、これらは可能性にすぎません。実際の原因を、外から見ただけで断定することはできません。
大切なのは、本人の性格だけに原因を求めるのではなく、「行動の前に何があったか」「行動の後に何が起きたか」「どのような経験が重なっているか」を確認することです。

何度注意しても同じ行動が続くのはなぜか
注意を繰り返しているのに、対象となる行動がなかなか減らないことがあります。
例えば、ある行動をした直後に、大人が長い時間をかけて本人へ話しかけているとします。この関わりが、本人にとって注目を得られる結果になっていれば、注意が意図に反して行動を維持している可能性があります。
ただし、注意をした後に行動が続いているからといって、注意が原因だとすぐに断定することはできません。課題の難しさ、不安、感覚的な負担、体調、周囲との関係など、別の要因も考えられます。
一つの場面だけで判断せず、行動の前後を継続的に観察する必要があります。
行動だけでなく、その背景に目を向ける
学習心理学は、人の行動を具体的に観察する視点を与えてくれます。その一方で、人間の行動を条件づけだけですべて説明することはできません。
行動には、次のような要因も関係します。
- 本人の考えや感情
- 発達段階
- 障害特性
- 身体状態や疲労
- 家庭や職場などの環境
- 周囲との人間関係
- 本人が大切にしている価値観
学習心理学は、人間を単純な刺激と反応の組み合わせとして見るための学問ではありません。行動が成立している条件を、具体的に理解するための視点の一つです。
学習心理学を仕事や対人支援に活かす場面
学習心理学の知識は、心理職だけでなく、教育、福祉、人材育成など、人の行動や成長に関わるさまざまな仕事と接点があります。
心理職
心理職は、不安、恐怖、回避、習慣などが、どのような経験によって形成・維持されているかを検討することがあります。
学習理論は行動療法に活用されている
行動療法は、学習心理学から生まれた学習理論の原理を、心理的な問題の理解と支援に応用して発展してきました。古典的条件づけやオペラント条件づけなどの知見をもとに、問題となっている行動がどのように形成され、維持されているかを整理します。そのうえで、本人が望む行動の変化を支援します。
例えば、特定の場所や状況に強い不安を感じ、それを避け続けている場合を考えてみましょう。避けることで一時的に不安が下がると、回避行動が繰り返されやすくなることがあります。行動療法では、このような学習の仕組みを踏まえ、本人の状態に配慮しながら段階的に対処を練習する方法などが検討されます。
日本心理学会が紹介する「学習理論の臨床現場への応用」でも、古典的条件づけやオペラント条件づけといった学習理論から、現実場面の困りごとを理解し、解決策を検討する考え方が示されています。
認知行動療法も行動療法の発展と関係します。ただし、認知行動療法では行動だけでなく、考え方や物事の受け止め方などの認知的側面も扱います。学習理論だけで認知行動療法の全体を説明できるわけではありません。
ただし、相談者の問題を学習理論だけで説明することはできません。本人の認知、感情、生活環境、発達歴などを含めて、多面的に理解する必要があります。
児童福祉・療育
児童福祉や療育では、子どもの行動だけを取り出して注意するのではなく、その行動が生じた前後の状況を整理することがあります。
例えば、どのような場面で行動が生じやすいか、その後に何が起きているか、望ましい行動をしたときにどのような反応が返っているかを確認します。
こうした視点は、子どもの行動を「わがまま」「やる気がない」と決めつけず、必要な支援や環境調整を考える手がかりになります。
応用行動分析は学習心理学を発達支援に応用した方法の一つ
応用行動分析(Applied Behavior Analysis:ABA)は、学習心理学、とりわけ行動分析学で明らかにされてきた行動の原理を、生活上の課題の解決に応用する学問・実践体系です。発達支援の現場でも活用されています。
児童福祉や療育では、子どもの行動だけを取り出して注意するのではなく、その行動が生じた前後の状況を整理することがあります。
例えば、どのような場面で行動が生じやすいか、その後に何が起きているか、望ましい行動をしたときにどのような反応が返っているかを確認します。
具体例として、子どもが集団活動の指示だけでは課題を始めにくい場面を考えてみましょう。支援者は、課題の難しさ、指示の伝わり方、活動前後の出来事などを観察します。そのうえで、課題を小さな段階に分ける、分かりやすい見本を示す、取り組めた行動に具体的なフィードバックを返す、といった支援を検討します。
こうした視点は、子どもの行動を「わがまま」「やる気がない」と決めつけず、必要な支援や環境調整を考える手がかりになります。
日本心理学会の応用行動分析学に関する解説では、基礎研究で蓄積された行動の原理を、対人援助や臨床場面に応用する意義が説明されています。また、日本心理学会の特集では、応用行動分析学が発達支援などの領域で活用されていることも紹介されています。
ただし、ABAは「指示に従わせる方法」ではありません。支援する行動は、支援者の都合だけで決めず、本人の生活上の利益、意思、発達段階、感覚特性などを踏まえて検討する必要があります。
教員・教育支援職
教育場面では、学習課題の難易度を調整すること、取り組みに対して具体的なフィードバックを行うこと、望ましい行動の見本を示すことなどに、学習心理学の考え方を応用できます。
一度に大きな課題を求めるのではなく、達成できる小さな段階に分ける方法も、行動の形成を支えるうえで有効な場合があります。
キャリア支援職
キャリア相談では、「転職したいのに行動できない」「失敗するのが怖くて応募できない」といった相談を受けることがあります。
そのようなとき、本人の意志が弱いと判断するのではなく、過去の失敗経験、行動を避けることで得られる安心、周囲からの反応などを検討することができます。
ただし、相談者の内面を条件づけだけで説明するのではなく、本人が何を大切にしているのか、どのような葛藤があるのかを理解することも必要です。
人事・研修担当者
職場の研修では、説明を聞かせるだけでなく、望ましい行動の見本を示す、実際に練習する、具体的なフィードバックを返すといった方法が使われます。
研修で学んだ内容を実際の職場で実行したとき、周囲がどのような反応をするかも重要です。新しい行動が評価されなかったり、かえって負担が増えたりすれば、研修内容が定着しない可能性があります。
広告・マーケティング
広告では、商品と好ましい音楽、人物、風景などを組み合わせ、商品に対する感情的な印象を形成しようとすることがあります。
商品を購入した後に得られる特典や、サービスを繰り返し利用したくなる仕組みは、オペラント条件づけと関連づけて考えることもできます。
ただし、消費行動は学習だけで決まるものではありません。価格、必要性、社会的評価、認知的判断なども関係します。
学習心理学を対人支援に応用するときの注意点
学習心理学を知ると、人の行動が変化する仕組みを考えやすくなります。しかし、使い方によっては、本人の意思や感情を軽視する危険もあります。
すべての行動を条件づけだけで説明しない
同じ行動でも、その背景は人によって異なります。
課題を避ける行動一つをとっても、課題が難しい、不安がある、疲れている、指示を理解できていない、別のことへ関心が向いているなど、さまざまな可能性があります。
学習理論だけで原因を決めつけず、認知、感情、発達、身体状態、社会環境などを含めて検討することが必要です。
罰は望ましい行動を教えるものではない
罰や弱化によって、特定の行動が一時的に減ることはあります。しかし、行動を減らすだけでは、代わりに何をすればよいかは伝わりません。
さらに、罰を与える人や場所を避けるようになる、不安や反発が強くなる、見つからない場所で同じ行動をする、といった別の問題が生じる可能性も考える必要があります。
望ましくない行動を減らす場合も、代わりとなる適切な行動を具体的に教え、その行動を実行しやすい環境を整える視点が欠かせません。
支援者に都合のよい行動を押しつけない
行動を変えようとするときは、「誰にとって望ましい行動なのか」を考える必要があります。
支援者が扱いやすくなることと、本人の生活がよくなることは、必ずしも同じではありません。
本人の意思、尊厳、生活上の利益を尊重し、行動だけを見て気持ちや考えを軽視しないことが重要です。学習心理学は、人を思いどおりに操作する方法として使うものではありません。
学習心理学と資格・公認心理師との関係
学習心理学だけを対象とした、一般的な国家資格があるわけではありません。学習心理学は、大学の心理学課程や心理学系資格の学習内容の一部として扱われます。
公認心理師課程では「学習・言語心理学」として学ぶ
公認心理師になるために大学で履修する必要がある科目には、「学習・言語心理学」が含まれています。
文部科学省と厚生労働省が示した「大学における必要な科目に含まれる事項」では、同科目の内容として、次の2点が挙げられています。
- 人の行動が変化する過程
- 言語の習得における機序
学習心理学は、公認心理師養成課程における基礎心理学の一つに位置づけられているのです。
ただし、「学習・言語心理学」は、学習心理学だけを扱う科目ではありません。今回の記事では学習心理学を主題としているため、言語習得の仕組みについては詳しく取り上げていません。
また、学習心理学を学んだだけで、公認心理師の実務を行えるようになるわけではありません。公認心理師には、心理的アセスメント、心理支援、関係者への相談や助言、多職種との連携、職業倫理など、幅広い知識と技能が求められます。
大学では実験法や統計法も重要になる
学習心理学は、研究者の考えを暗記するだけの科目ではありません。多くの理論は、条件を統制した実験と、そこで観察された行動から組み立てられてきました。
大学で学習心理学を学ぶときには、独立変数、従属変数、実験条件、統制条件など、心理学研究法の知識も必要になります。実験結果を適切に読み取るためには、心理統計法も関係します。
また、動物実験で確認された結果を、そのまま人間の複雑な行動へ当てはめることはできません。どのような対象と条件で得られた結果なのかを確認する姿勢が大切です。
心理学実験についてはこちらの記事心理学を実験系と臨床系の2つに分類!あなたはどららに興味ある?もご参照ください。
学習心理学についてよくある質問
学習心理学は勉強法を研究する心理学ですか?
学習心理学が中心的に扱うのは、経験による行動の獲得や変化です。勉強に関係する研究や応用もありますが、学校の勉強だけを扱う心理学ではありません。
記憶の定着、理解、動機づけなどには、認知心理学や教育心理学も関係します。
古典的条件づけとオペラント条件づけの違いは何ですか?
古典的条件づけは、主として刺激と刺激の関係による学習です。オペラント条件づけは、行動と、その後に生じる結果の関係による学習です。
「受動的か能動的か」だけでなく、「何と何が結びつく学習なのか」に注目すると区別しやすくなります。
褒めることは正の強化ですか?
褒めたという事実だけでは、正の強化とは判断できません。
褒めた後に対象となる行動が増えた場合、その褒め言葉が、その場面で強化子として機能したと考えられます。何が強化子になるかは、人や状況によって異なります。
学習心理学はカウンセリングに役立ちますか?
学習心理学は、恐怖、回避、習慣などが形成・維持される仕組みを考える基礎の一つになります。
ただし、個人の問題を学習理論だけで説明することはできません。また、学習心理学の知識だけで心理支援を行えるわけでもありません。
学習心理学に関係する資格はありますか?
学習心理学だけを対象とした一般的な国家資格ではなく、公認心理師などの心理学教育の一部として学ばれる領域です。
資格名だけでなく、その資格の養成課程や試験で、学習心理学がどのように扱われているかを確認する必要があります。
まとめ――学習心理学は人の行動の変化を考える手がかりになる
学習心理学は、人や動物の行動が、経験によってどのように獲得され、変化するのかを研究する心理学です。
代表的な理論には、刺激と刺激の関係を扱う古典的条件づけ、行動と結果の関係を扱うオペラント条件づけ、他者の行動を見て学ぶ観察学習があります。
学習心理学の知見は、教育、児童福祉、心理支援、キャリア支援、人材育成など、さまざまな仕事と関係しています。
一方で、人間の行動を条件づけだけですべて説明することはできません。認知、感情、身体状態、発達、社会環境、本人の価値観なども考える必要があります。
学習心理学を学ぶ価値は、人を思いどおりに動かす方法を知ることではありません。目の前の行動を性格や意欲の問題として片づけず、どのような経験と環境の中で身につき、維持されているのかを考える視点を得ることにあります。
参考文献・参考資料
- 公益社団法人日本心理学会「学習心理学って知っていますか?」『心理学ワールド』105号(学習心理学の定義、古典的条件づけ、オペラント条件づけ、日常生活への応用の確認に使用)
- 厚生労働省「公認心理師試験の施行」(公認心理師となるために大学で履修する必要がある科目の確認に使用)
- 文部科学省・厚生労働省「公認心理師法第7条第1号及び第2号に規定する公認心理師となるために必要な科目の確認について」別添「大学における必要な科目に含まれる事項」(「学習・言語心理学」に含まれる事項の確認に使用)
- Fryling, M. J., Johnston, C., & Hayes, L. J. (2011). Understanding Observational Learning: An Interbehavioral Approach. The Analysis of Verbal Behavior, 27, 191–203.(観察学習に関するバンデューラの4過程の確認に使用)

