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なぜ心理カウンセリングに「傾聴」が必要なのか?日本傾聴能力開発協会・岩松正史さんインタビュー

「傾聴」と聞くと何を思い浮かべますか?忍耐強く黙って話を聴くこと?ひたすら「わかります」とうなずくこと?心理カウンセリングの現場で行われている“聴く”について知ると、イメージが変わるかもしれません。本インタビューでは、一般社団法人日本傾聴能力開発協会の代表理事であり公認心理師でもある岩松正史さんに、傾聴の目的や実際の感覚、身につけるためのポイントなどについて伺いました。

傾聴とは?目的はクライエントが自分を癒せるようになること

──なぜ心理カウンセリングで傾聴が重要とされているのでしょうか?

心理カウンセリングの目的である「人間の回復」のプロセスに傾聴が直接的に関わっているからです。

人は気持ちを語ることで楽になり、「わかってもらえた」と感じることで癒されます。しかしその効果は一時的なものに過ぎません。心理カウンセリングの最終的な目標は、クライエントが自分で自分を受け入れられるようになることです。

カウンセラーが傾聴を繰り返し行うと、クライエントはその姿勢を心に写し取っていきます。すると、カウンセリング以外の場面でも、自分の気持ちに耳を傾けられるようになっていくのです。いわば”セルフ傾聴”ですね。これが傾聴によって人の心が癒される仕組みです。

──そもそも傾聴とは何でしょうか?

誤解を恐れずに言えば、「相手を理解しようとする姿勢で話を聞くこと」です。心理カウンセリングにおいては、カール・ロジャーズの「来談者中心療法」からはじまるコミュニケーションの取り方を指します。

傾聴の共感力を高める「フェルトセンス」の鍛え方

──日常生活における会話でも「わかってもらえてうれしい」と思うことがあります。訓練された傾聴との違いを教えてください。

会話が同感的か共感的かの違いです。同感と共感は別物です。

日常会話で使われる同感は、話を聞いて感じた自分の気持ちを話します。友達が「このあいだディズニーランドに行ったよ」と言ったら、「私もディズニーランド大好き!どのアトラクションで遊んだの?」と自分の興味で反応するのが同感です。会話は盛り上がりますが、相手を理解しようとしているわけではありません。

共感は、自分の気持ちはいったん脇に置き、相手が感じていることに耳を傾けます。相手が見ている世界と同じ世界を見て感じながら聴く姿勢が大切です。

話しながら感じていることは一人一人まるで違います。ディズニーランドは楽しい場所ですが、恋人と別れた場所だったら、つらい記憶が思い出されるかもしれません。相手にとって本当の意味を知ろうとするのが共感です。

訓練された傾聴では、クライエントに「伝えよう」とするのではなく、伝わっている状態をカウンセラーの態度で示すようになります。ことさらに「あなたの気持ち、わかります」などと言う必要はありません。共感を示す行動(doing)よりも、在り方(being)が大切であると、ロジャーズも言っています。

──感覚的な世界ですね。どうすれば傾聴を身につけられるでしょうか。

自分の内側を意識する感覚を磨くことです。言葉にできないモヤモヤした「感じ」をフェルトセンスといいます。まずはフェルトセンスが当たり前に存在し、常に自分の中で動いていることに気づきましょう。

普段の生活でも「おやっ」とした瞬間に立ち止まることを意識すると、フェルトセンスを鍛えられます。

スーパーの野菜売り場を想像してください。レタスの山から一つ選ぶとします。たくさんあるレタスの中から、なぜそれを選んだのでしょうか?色ツヤがいいから?泥がついていないから?このように、普段は意識しないことを言葉にしてみると、フェルトセンスをつかみやすくなります。

──フェルトセンスは傾聴でどのように生きますか?

自分の「感じ」を知ることで、クライエントの「感じ」も想像できるようになります。泣いている赤ちゃんを「泣きたい気持ちなんだなぁ」と見守るような意識で、相手の「感じ」を受け止める。そこにカウンセラー自身の「感じ」があることで、カウンセリングの場を俯瞰できます。あたたかくもあり、冷静でもある──そんな場づくりがセルフ傾聴につながっていくのです。

傾聴を学ぶ前に知っておくべきこと

──傾聴のトレーニングを始めるにあたって注意すべき点はありますか?

ゴールを意識することです。学び始めの頃は、聞き方ばかりに意識が向きがちで、相手の反応に一喜一憂して疲れてしまう人も多い。私はそのような「傾聴迷子」をたくさん見てきました。

無理もありません。一般的なカウンセリング講座では心理療法のテクニックを学びますが、「どこを目指すのか」という終着点について教えてくれる人はあまりいないからです。みなさん始め方と進め方は知っているけれど、終わり方がわからないのが実情です。

先述したように、カウンセリングの目的はクライエントが自分の声を聴けるようになることです。このような目的意識があれば、トレーニングは楽しく効率的になります。

──傾聴力がついたといえるには、一般的にどれくらいの年月が必要ですか?

3〜5年ほど続けると、「傾聴が楽になった」という人が出てきます。主観的に思えるかもしれませんが、自分なりの基準ができるということが重要です。方法論よりも在り方に目を向けられているということですから。

──傾聴に向き不向きはあるのでしょうか?

カウンセラーの性格や志向によって適した心理療法はあると思います。クライエントの問題をわかりやすく解決したい人は認知行動療法がいいでしょう。精神分析はクライエントの過去に焦点を当てた「自分探し」のアプローチといえます。ただ、どの方法論を取るにしても、傾聴の基本である「相手を理解しようとする姿勢」は欠かせません。

来談者中心療法における傾聴は「いま、この瞬間」から未来を発見し、創造する営みであると、私は捉えています。ランチに行って、餃子定食を選ぼうかと思う。しかし、なんとなく気が変わって、やっぱり唐揚げ定食にする。この「なんとなく」がフェルトセンスです。問題解決や過去の原因分析よりも、クライエントが未来を選択するプロセスに興味がある人は、傾聴に特化するといいかもしれません。

いい傾聴はクライエントとカウンセラーのどちらも楽にする

──最後に、これから心理カウンセラーを目指す人に向けてメッセージをお願いします。

傾聴はあなた自身のためにしましょう、と伝えたいです。

自己犠牲の精神で話を聴こうとしても、クライエントと良い関係を作れません。苦しさが顔に出るからです。私は引きこもり支援のNPOで、子供の気持ちをわかろうとして傾聴に挑む親御さんたちを見てきました。我慢を重ねて引きつった親の顔を見た子供は罪悪感を抱き、状況は悪化してしまいます。

もっとカウンセラー自身が楽になる聴き方を目指していいんです。カウンセラーとして活動を続けられている人は、カウンセリングスキルを自分のために使おうとしている人です。それが健全で健康な在り方だと思います。結果として、クライエントにとって良い支援者になれるでしょう。

[構成・企画協力:井上あやめ│編集:山田悠記(しんきゃり編集部)]

岩松正史さんプロフィール

一般社団法人日本傾聴能力開発協会 代表理事。公認心理師、キャリアコンサルタント、産業カウンセラー。2005年より傾聴を学び始め、2015年に同協会を設立。全国で傾聴講座を開催し、受講者は累計6,000人を超える。企業や自治体向けの研修、引きこもり支援、ボランティア育成など幅広い経験を有し、傾聴の普及に尽力している。著書は『心理学に学ぶ鏡の傾聴』『聴く力の強化書』など多数。

同協会は傾聴サポーター®養成講座などを開講している。

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