AIが普及し、認知心理学や認知科学という言葉が世の中でよく聞かれるようになりました。認知心理学・認知科学と切り離せないのが「認知バイアス」という言葉です。2022年12月にはXの創設者であるイーロン・マスクが「すべての若い人は勉強すべき」と50の認知バイアスを提示し、一般的にもよく知られるようになりました。
認知バイアスとは「勘違い、バグのようなもの」と捉えるとわかりやすいでしょう。後で詳しく見ていきますが、この認知バイアスにはメリットもデメリットもあります。
「自分の直感ってどこまで信じていいのかな」
「どうすれば人に騙されずにすむの?」
「世の中でうまく生きていくために必要な知識ってなんだろう……」
「そもそも認知バイアスってなんやねん」
そう思う人は、認知バイアスについて様々な視点から学び、活用・克服の仕方を知ると、自分自身の裁量を信じられるようになるでしょう。すると、世の中がさらに生きやすくなるはずです。
本記事では、認知バイアスについて様々な視点から解説し、活用法、克服法まで述べます。心理学を実生活に活かしたい人や、認知バイアスについて深く知りたいという人は、ぜひ最後までご覧ください。
認知バイアスとは
では、認知バイアスとはどのようなものかを説明していきます。
はじめに、認知バイアスという言葉を認知とバイアスに分解して、ひとつひとつの意味をみていきましょう。
認知とは
認知とは、自分自身の身体全体で感じていることのすべてです。わかりやすく身体全体と書きましたが、認知する際は五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を使います。認知とは、その五感で受け取った情報を脳で処理することです。
『サクッとわかるビジネス教養 認知バイアス』(藤田政博/著)によると、認知の対象は2つあります。それは、物理的世界と人間関係的世界です。
・物理的世界
物理的世界とは、直接五感を使って感じることのできる世界です。例えば、「この物体はやわらかくて、すべすべしているな。甘い匂いがする。」などです。
・人間関係的世界
人間関係的世界とは、自分と周りにいる人々はどのような性格をしているか、身近な人との人間関係のあり方など、物理的にはわからない世界です。それをどのようにして感じ取っているかというと、相手の表情や声色を感じて、行動をみています。家族、友人関係、仕事などその場所でよく接する人々に対して、「この人はこんなところがあるな。だからこのような人なんだろう」とラベルを貼って自分なりに解釈していきます。例えば、「職場の同僚は、少しおっちょこちょいだけど、優しいな」などです。
ちなみにその自分自身の社会の窓から見える世界(景色)のことをスキーマと言います。
バイアスとは
バイアスとは、「偏り、先入観」という意味です。それではバイアスと似た意味のステレオタイプとの違いは何なのでしょうか。バイアスとステレオタイプは似ていますが意味が異なります。それは先天的か後天的なものかの違いです。
バイアスは「偏り、先入観」と前述しました。ステレオタイプは、「ある集団に属する人には共通した特徴がある」と考えることをさします。バイアスは、人類が生き残るために本能的に刻まれるものですが、ステレオタイプは、生活していく中で後天的に生まれるものです。例えば、「香川県の人々はうどんが好き」です。これは文化が発展していくなかで、後天的に香川県がうどんで有名になったのです。そしてその県にいる人々のなかには、うどんが嫌いな人々もいます。これは香川県がうどんで有名なだけで、香川県にいる人々全員がうどんが好きな訳ではありません。後天的に発展し、現実とは違う認知をしているものがステレオタイプです。
そしてステレオタイプと一緒によく使われる偏見は、「ネガティブなステレオタイプ」のことです。
認知バイアスは人類が生き残りをかけた判断の過程で生み出した脳のバグ
冒頭で認知バイアスは「勘違い、バグ」のようなものと捉えるとわかりやすいと申しました。認知バイアスについてさらに詳しくみていきましょう。
まず脳の情報処理システムについて説明します。脳には2つの情報処理システムがあります。これはバイアス研究の巨匠であるダニエル・カーネマンとエイモス・トバースキーが提唱しました。
それでは、その2つの情報処理システムについて説明します。先に挙げた『サクッとわかるビジネス教養 認知バイアス』によると、システム1は「自動的に高速で働く自分でコントロールしている自覚のない情報処理方法」で、システム2は「複雑な計算など注意力を必要とする情報処理方法」です。
システム1は、世の中で人類が生き残りをかけ、時間短縮のため直感で判断するもの。システム2は、勉強をする時など、そこに書いてあることをじっくり理解したり、反復したり、反論することに使います。
どちらのシステムが優秀かは、その人の考え方次第かと思いますが、システム1を波に乗るように使えば、忙しい世の中でさらに生き残れるのではないかと思います。一般的には、システム1は優秀だと言われています。ベストとは言わなくてもベターくらいの判断ができるのです。しかもそれは、過去の自分の経験が蓄積されたデータベースから算出されたシステムによる判断です。なので運まかせに判断しているのではないのです。
しかし、システム1にもデメリットがあり、それが誤謬(ごびゅう)です。人は自分自身を安心させるために本来あるべき姿とは違った判断(=誤謬)を生むのです。これが認知バイアスです。
認知バイアスはなんのためにあるのか
では、認知バイアスとはなんのためにあるのでしょうか。
簡単にいうと、脳の情報処理システムに負荷をかけないためです。また、人類が世の中で生き残るためでもあります。
・脳の情報処理システムに負荷をかけないため
わたしたちが見ている空間のなかの情報量は毎秒1000万ビットと言われています。しかし、脳が実際に処理できる情報は20~40ビットほどしかありません。わたしたちは日々、たくさんの情報に接しながら生きているのです。
身の回りの全ての情報をわかろうとすると、脳に負担がかかります。負荷をかけないためにも、脳はその本人にとって必要な情報のみを選択しているのです。それによって脳の情報処理システムに大きな負担をかけないように、思考したり行動したりすることができるのです。
・人類が世の中で生き残るため
身の回りに起きていることをひとつひとつ「これはこうなのだろうか」などと考えていくと時間がかかってしまいます。勉強など時間が取れる時はひとつひとつ考えていいかもしれません。しかし、普段生活している中でいちいち考えてなどいられない時、例えば道を歩いていたら不審者がいるような時もあります。包丁をもっているような不審者がいた場合は、「包丁を持って振り回しているけど、本当は良い人なのかもしれない」などとは思いません。それは過去のその人自身の経験・記憶から包丁を持って振り回している人は危険であるというデータがあるからです。
このように過去のデータに基づいた認知バイアスによって、人間はその時々でこの場合はこうだろうと判断しているのです。それは人類が世の中で生き残っていくためでもあり、バランスよく生きていくためでもあります。
なぜ認知バイアスが注目されているのか
なぜ今認知バイアスが注目されているのでしょうか。それは2つの理由があります。
・人間関係を左右する要因になるから
・マーケティングにも活かせるため
・人間関係を左右する要因になるから
前の項目でも述べましたように、認知は、人間関係世界と物理的世界からなっています。
人は、認知の人間関係世界からも世の中を見ています。「対人関係の悩みが人間のほとんどの悩み」と心理学者のアドラーが言っていますが、それほど人間関係は人にとって重要なのです。
よって認知バイアスにおいても、人間関係は重要な要因となりえるでしょう。認知バイアスは人間関係においてもよく使われます。簡単な例でいうと、白衣を着ている人がいたら、その人はお医者さんだと思うことです。人は人と関わる時にこの人はこんな人だろうと判断する時があります。それは着ている服であったり、その人の表情であったり、様々な点から判断するでしょう。人間関係に関する認知バイアスは、対人関係において重要な役割を果たすのです。
・マーケティングにも活かせるため
例えば、人気の芸能人が紹介している商品があったら、「なんだか良い商品なのかな!?」と思うかもしれません。それはハロー効果という認知バイアスによって引き起こされます。ハロー効果の他にもマーケティングに活かせる認知バイアスがあります。世の中には認知バイアスによる広告がたくさんあるのです。Xの創設者であるイーロン・マスクも「すべての若い人は勉強すべき」と50の認知バイアスをあげています。
代表的な5種類の認知バイアス
それでは、代表的な5種類の認知バイアスについてみていきましょう。
『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』(西剛志/著)によると、代表的な5種類の認知バイアスは以下の通りです。ひとつずつ説明していきます。
・注目バイアス
・プライミング効果
・比較バイアス
・現在バイアス
・作話
注目バイアス
注目バイアスとは、一度気になりだすと、その対象を頻繁に目にするようになるというものです。例えば、欲しいバックができると、そのバックを持った道行く人をよく目にするようになるなどがあげられます。これは人間の後天的なものではなく、先天的なものだと証明されています。それは、赤ちゃんの「追視」という動作からもわかります。赤ちゃんの「追視」とは、目の前に見えたものを視線で捉え、それを追いかけるものです。まだ生まれたばかりの赤ちゃんにもそれが備わっていると言われています。生まれたばかりの赤ちゃんもそれを行うように、人間には一度気になりだすともっと気になってしまうという性質があるのです。
注目バイアスは「バーダー・マインホフ効果(Baader-Meinhof effect)」、「頻度幻想(Frequency illusion)」と呼ばれることもあります。
プライミング効果
子供の頃、こんな遊びをしたことがないでしょうか。友達相手に「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ……」と10回言ってもらった後、ひじを指さして「ここはどこ?」と聞きます。するとだいたいの人が「ひざ」と答えてしまうものです。
これは直前に聞いた言葉がその後の選択に影響するプライミング効果です。道を歩いていて、例えば「焼き肉が食べたいな(対象となる食べ物はなんでもいいです)」と思う時があると思います。それはその直前に、焼肉屋さんからでる煙でその匂いがしたり、焼き肉屋の看板がでていたりするのです。潜在的に意識に刷り込まれているのです。前に見たり聞いたりした情報につられてその後も同じような選択をしてしまうのです。
比較バイアス
重ねて学生時代のことで恐縮ですが、友達と冗談でこんな話をしたことはないでしょうか。例えば、部活動で「自分と同じくらいか、それより下のレベルの仲間のいるクラブで活躍する」か、それとも「自分より上のレベルの仲間のいるクラブでスキルを磨きながら、生き残る」かだとどっちが向いているかというお話です。
人間は様々な環境下で適応していかなければなりません。どの環境の中で生きていくにもメリット、デメリットがあります。前者では、自分が誇大に感じてしまうデメリットがありますし、後者は、選択するその人に自信がなかったら生き残っていけません。後者の環境では、自分に自信がない人がレベルの高い環境で過ごすと、ますます自分自身が小さく見えて行ってしまうことがある調査の結果にもでています(インポスター症候群と言います)。世の中に適応していく為には、様々な体験をして、経験値を高めていかなければならないのです。
比較することは、人類の本能です。原始人の頃から人は、「獲物はどちらが良いか」、「子孫を残すならどちらの人が良いか」、「美味しそうな食べ物はどちらか」などとAとBで比較してきました。比較することによって、物事が取捨選択され、歴史や文化が発展していったのです。
現在バイアス
現在バイアスは、現在の行動に対して、「もっとこうした方がいいのではないか」と思ってはいても、「今のままの方でいたほうが、冒険をしなくてすむし、安心だ」と考えることです。例えば、「職場に不満があるけれど、やめられない」などです。この例は人によって良くも悪くも捉えられます。ある程度の職場への不満なら、「それくらい社会人としてうまくやっていくべきだ」と考える人もいると思います。しかしある人は、「同じ場所で3年働いたらスキルアップのために転職をするのも一つの方法だ」と提案するかもしれません。
どちらを選択するかは、メリットもデメリットも鑑みてその人自身が決めるしかないのです。
ちなみに現在バイアスのデメリットとして、温室のような環境の中にずっといると中だるみが起き、本来あるべき理想の姿とはかけ離れていくことがあげられます。その例として、「ゆでガエル」の寓話があります。ぬるま湯の中にカエルを入れて、徐々に温度を高くしていきます。するとカエルは気づかずに茹で上がってしまうというものです。(実際はカエルをそのようにしても、温度が高くなるとお湯から逃げていくそうです。)一見、問題ないように見える現状維持の行動が、実は後退につながっていたということもあるのです。
作話
伝言ゲームで、一番はじめに伝えた言葉(題材)が、何人かの人をたどるとその言葉が全然違うものになっていることがあります。これが作話です。
作話とは自分の感情によって過去に起きた出来事を都合よく変えてしまうことを指します。例えば、「仕事のプロジェクトが失敗したのは、あの上司のせいだ」と思うことがあったとしましょう。しかし、実際には、失敗した要因は自分にあったのかもしれません。しかし、自分の感情によって、事実が自分のために変えられてしまっているのです。
「つらい、苦しい、怖い」などの感情は強烈です。このような感情は脳の偏桃体という部分に刷り込まれます。同じようなことが起こると偏桃体が反応して、それを回避するのです。これは人間が生き残るためのもので、つらいなどの感情は危機回避するようにできているのです。そのような感情によって、ある出来事が自分なりの解釈となり偏りが生じることを作話といいます。
日常生活における認知バイアスの影響
次に、日常生活における認知バイアスの影響をお伝えしていきます。
日常生活における認知バイアスの影響は3つあります。
・現実認知への影響
・自己認知への影響
・対人関係への影響
現実認知への影響
よく恋人同士の別れの原因に価値観の違いがあげられますが、価値観は違って当たり前です。育った環境が似ていたら、共感できる部分はあるかもしれません。しかし、まったく同じ人生を歩んだ人は他にいないので、価値観は違って当たり前なのです。
なぜこのような話をしたかというと、もちろん認知バイアスが関係しているからです。ひとがものを見たり聞いたりなど五感を使っている時にも認知バイアスが存在しています。ものを捉える時には、その人固有の認知バイアスが存在しているのです。前述したように、人間は脳のなかにそれまで蓄えられている知識を使って物事を認知した結果、判断しています。重要なのは、その知識によってわたしたちの判断は方向づけられているのです。人間の脳にはあらかじめその人固有の認知バイアスが埋め込まれているのです。
自己認知への影響
自分とは何かという問いには、「過去の自分と周りからの評価」と答えるのがいいでしょう。自分とは、過去の自分のエピソード記憶と周りからの評価なのです。しかし、これにはどれくらいの信憑性があるのでしょうか。
社会心理学では、自己認知にも認知バイアスが入り込んでいると言われています。前の項目で記した作話の例からもわかります。エピソード記憶にも周りからの評価にももとからバイアスがかかっていそうですよね。エピソード記憶とは自分自身が体験したことについての自分自身が考えて作り出した記憶です。周りからの評価についても、考えてみるとどうでしょうか。周りの評価の「周り」を「会社」に置き換えて考えてみましょう。会社の評価はその会社独自の文化によっても評価は変わってきます。周りの人間からの評価なので、その人ひとりひとりにも認知バイアスはあるのを学びました。すると、やはり認知バイアスが加わっています。なので自己認知に周りからの評価が加わっている時点でそもそも認知バイアスは入り込んでいるのです。
難しいですよね。自己認知は高度な心の働きなのです。
対人関係への影響
ここまでのお話でなんとなく想像はつくと思いますが、対人関係の認知は自己認知よりもさらに高度な心の働きとなっております。
「他者と適切な関係を築く」これこそが人間がはるか昔から発達させてきたものです。それは、相手はどんなことを考えているのだろうと想像することから始まると思います。このように、相手の特徴を知覚することを「対人認知」と言います。
対人認知の材料は五感で、主に視覚と聴覚です。対面の対話によってこの人はどのような人だろうと想像するのです。しかし、それはあくまで推測の域をでません。つまり相手の本当の気持ちはわからないのです。自分自身がいくら想像してもそれがあっているとは限らないのです。本当のところはわからないのですから、認知バイアスもいっそう入り込みます。わからないなりにも、歴史や文化を発展させていくために、人類は信頼関係を築いていくのです。
ビジネスにおける認知バイアスの影響
さらに、ビジネスにおける認知バイアスの影響を見ていきましょう。ビジネスにおける認知バイアスの影響として2つあげます。
・マーケティングでの活用とその例
・組織の意思決定における問題点
マーケティングでの活用とその例
認知バイアスはマーケティングに活用できます。活用できる認知バイアスとその例について挙げていきます。
マーケティングに活用できる認知バイアスは5つです。
・アンカリング効果
・希少性バイアス
・社会的証明バイアス
・フレーミング効果
・損失回避バイアス
・アンカリング効果
活用方法:最初に高い価格の商品を提示する。それによって後に提示される商品が安いかのように感じる。
例:レストランのメニューで、最初に目玉の高額な高級食材を載せる。すると他の品物が相対的に安く見える。
・希少性バイアス
活用方法:商品やサービスに「数量限定」や「期間限定」とつける。消費者は、これに希少性を感じ、購入しようとする。
例:期間限定と謳った販売キャンペーン。または「残り〇点」などと書き、消費者を掻き立てる。
・社会的証明バイアス
活用方法:口コミやレビューを強調する。他人の行動や選択に影響されやすい心理を利用したもの。「ミリオンセラー」「〇万部突破」と帯にはってある書籍などもこれにあたる。
・フレーミング効果
活用方法:商品のメリットや価格をどのように表現するかによって消費者の印象を操作する。この商品を買いたい人はどのような人なのだろうと想像し、表現を考える。
例:脱毛サロンの広告で「月額わずか○○円」と小さな負担に感じさせる。
・損失回避バイアス
活用方法:「今購入しないと後悔する」と消費者に刷り込むことで、行動を促す。
例:「閉店セール」など今買わないと損するという感覚を与える。
・組織の意思決定における問題点
認知バイアスはマーケティングにおいて非常に効果があります。しかし、それを使って消費者を騙すような倫理的ではない行動があるのも事実です。そのような認知バイアスの悪用に立ち向かうための対策があります。それは、「透明な情報提供」「第三者による評価の強調」「消費者の選択肢の強化」「クーリングオフ期間の導入」です。これをかかげることによって、消費者に対する倫理的な配慮が促され、信頼性が増します。組織の意思決定において、短期的な利益ではなく、長期的な信頼関係における利益を大事にするべきです。
認知バイアスを克服するには?対策方法4つを紹介
それでは認知バイアスを克服するにはどうしたら良いのでしょうか。対策方法を4つ紹介します。
・自己認識を高める
・批判的思考を養う
・多様な視点を取り入れる
・データと事実に基づいた判断を心がける
自己認識を高める
まず最初に、自己認識を高めることです。世の中には様々な認知バイアスがあり、現在認知、自己認知から対人認知となるにつれて認知バイアスがより複雑に入り込んでくることをきちんと認識しておく必要があります。他にも認知バイアスにおける理解を深め、それを自分にどう活かすかを考えると良いでしょう。
批判的思考を養う
物事を判断する時に、「これについてはこう思うけれど、本当に正しいのだろうか」「認知バイアスは入り込んでいないか」など批判的に考えることが大切です。例えば、本を読むときもそうです。読書をする時は、「本当にそうなのだろうか」と本に書いてあることを鵜呑みにせず、批判的に読むことが大事です。これは高校の現代文の授業でも習う一般的なことです。何事も冷静に判断することによって、批判的思考を養います。
多様な視点を取り入れる
多様な視点を取り入れるには、まず知識を持っていることが大切です。そして、フィードバックなどをもらい多様な視点を取り入れます。日ごろからネットのニュースなどの情報にふれて、新聞や本も読むと良いでしょう。そして、日常の会話でさりげなく友達や同僚、上司にフィードバックをもらうなどで、特定の視点や感情に偏ることがなくなります。また、自分とは違う立場の人の話を聞くことも効果的です。
世の中には様々な考え方の人がいて、どれも間違っているとは言えません。なぜかというとその人にとってはそれが正しいからです。その人固有の認知バイアスが入り込んでいることを理解し、多様な視点を取り入れましょう。
データと事実に基づいた判断を心がける
認知バイアスを克服するためには、データと事実に基づいて判断を心がけることが重要です。例えば、実際に会話をしていて、「こう思っているのかな?」と相手の気持ちを推し量ったとします。それを証明するには、そのような思いを相手が言葉にして伝えたという事実が必要です。そのためには、会話の文脈でそのようなことを言った事実があるか。また、実際にそのように思うか相手に聞いてみることによってわかります。直感をただ信じるのではなく、それを証明するデータと事実に基づいた判断を心がけましょう。
認知バイアスを活用する方法
これまで認知バイアスについて学んできましたが、実際に世の中でうまくやっているひとはどのように認知バイアスを活用しているのでしょうか。以下の3つの活用法を説明します。
・注目バイアスの活用法
・プライミング効果の活用法
・アンカリングを使ったドア・イン・ザ・フェイス法
注目バイアスの活用法
社会で成功したいならば、まず得たいものを明確にすることです。スポーツ選手や仕事がうまくいっている人、恋愛がうまくいっている人はゴールを明確にして、注目バイアスを活用しています。一度注目したものは、そのあとも目に入るようになる。また、そのことについてよく考えるようになります。得たいものに関する情報がどんどん入ってくるのです。それを利用して、得たいものを明確にして、それに向かって突き進むことができるように自分自身をコントロールするのです。
プライミング効果の活用法
注目バイアスに加え、プライミング効果も活用して、さらに目標達成に向けて、自分自身を奮い立たせて行きましょう。この効果は脳の性質です。
プライミング効果とは、直前に見たもの、聞いたものに影響を受けてしまうことです。その性質を利用して、実現したいことを紙に書きだして壁に貼るなど、視覚から攻めるのです。他にも例をあげると、表彰された時の写真を部屋に飾る、いつか行きたい海外、憧れの人の写真を良く見えるところに貼るなどです。憧れの人の講演を聞いたり、音源を聞いたりするのも良いでしょう。このように常日頃から目標を連想させるものに触れることによって、無意識のうちにそれについて考えることができるのです。
アンカリングを使ったドア・イン・ザ・フェイス法
ドア・イン・ザ・フェイス法とは、最初に大きな要求をして、相手にそれを断らせ罪悪感を与えたあと、本命に関連する小さな要求をして、その要求を承諾させやすくすることです。
これはアンカリングという認知バイアスを利用したものです。アンカリングとは初めに受けた印象が次の印象に影響するものです。
交渉者にとっては、計画通りの交渉でも、相手にとっては「有利な結果にできた」と思わせることができます。
この手法は営業で使われることが多いです。
認知バイアスの知識があれば世の中をより良く生きることができる
認知バイアスとは、様々なリスクのある世の中で生き残るためにうまれもった、人間の脳の性質です。「十人十色で、色々な人がいる世の中をどう生きていけばいいの?」と人間関係に悩む人にとってはメリットになります。第一印象や、自分自身が初めに思った感覚だけで判断してしまってもいいのです。「自分より他人を優先してしまう人」、「なんだか相手に悪いような気がして他人に気を使いすぎてしまう人」は、時には冷淡に切り捨ててしまってもいいのです。それは、自分自身の脳の可動域を広げるためにもなるのです。
あらためて、人間にとって認知バイアスは重要です。認知バイアスの知識を持つことによって、世の中をより良く生きることができます。意思決定や判断が偏りなくできるのです。認知バイアスは、無意識的に、人間の考え方や行動に強く影響します。そのような知識を踏まえた上で、「この状況は本当に自分が想像している世界観で正しいのだろうか」「そこに認知バイアスはないか」と自問自答することによって、より偏りの少ない現実をかみしめます。このように、自分が思い描く理想的な世界ではなく、楽しいこともつらいこともある現実的な世界を実感するのです。
このように原始人のころから人類に埋め込まれているシステムを上手に使っていきましょう。
よくある質問(FAQ)
- 認知バイアスは完全になくすことができるのか?
認知バイアスを完全になくすことは、現実的に考えて難しいです。
脳の情報処理システムのひとつであり、脳を効率的に活用するためにバイアスに頼ることも重要だからです。
- 認知バイアスにはポジティブな側面もあるのか?
認知バイアスにはポジティブな側面もあります。認知バイアスは人類が生き残るための性質として脳に埋め込まれたものなので、それを活用すればいいのです。迅速な意思決定やリスク回避ができるのも認知バイアスのポジティブな側面です。逆に何事も深く考えてしまう人にとっては、認知バイアスを活用して、世の中をうまく生きていくこともできるのです。
- 子どもの頃から認知バイアスへの対策は可能か?
子どもの頃から、認知バイアスへの対策をすることは可能です。養育者などの周りの人々が、前述した認知バイアスの克服法を意識しながら接すれば良いのです。前述した認知バイアスの克服法4点は、「自己認識を高める」、「批判的思考を養う」、「多様な視点を取り入れる」、「データと事実に基づいた判断を心がける」です。他にも養育者自身が認知バイアスへの克服法(対策法)を探し、考え、伝えていくのも良いです。日ごろのコミュニケーションでこのようなことを意識しながら育てていけば、自然と柔軟な考えが身に付きます。
参考書籍
・『サクッとわかるビジネス教養 認知バイアス』(藤田政博/著、新星出版社)
・『あなたの世界をガラリと変える 認知バイアスの教科書』(西剛志/著、SBクリエイティブ)
・『ファスト&スロー』上、下(ダニエル・カーネマン/著、村井章子/訳、早川書房)