前回、心理職のトラブルについて、それを防止するための心がまえなどについてお伝えしました。残念ながら2021年の末あたりから、皆さんもご存じのとおり精神科医療ないし地域医療に関して衝撃的な出来事が続いて起こっています。実を言って私自身とても他人事と思えず、たいへんショックを受けました。いくら対人援助職といっても、また、関係機関としっかり連携をはかっていても、すべての人を救えるわけではありません。今回は、これらの重大な出来事を受けて、私が日々クリニックに勤務しているなかで感じたことをお伝えしたいと思います。
治療をめぐるトラブル
当然ながら、クリニックには精神面でしんどい思いをしている人が来院します。医師はもちろん、私たちほかのスタッフもさまざまな形で患者さんを支えようとしていますが、なにしろ人対人のことです。こちらが良かれと思ってしたことや言ったことが、本人(あるいは家族)に曲解されて怒らせてしまうなどといったことはめずらしくありません。また、病気のために衝動的な行動をおさえられなくて、大声を出したり物にあたったりするような人もいます。
大半のクリニックがそうだと思いますが、受付、看護師、そして私のような心理職など、スタッフは圧倒的に女性が多いです。暴力行為などがあってもスタッフだけで対応することが難しいのは目に見えているので、(めったにありませんが)あまりひどいときには警察に連絡をすることもあります。これは、ほかの患者さんはもちろん、乱暴な行動をしている人自身を守るためでもあるのです。非常事態や緊急事態への対応を考えておくこと、そしてそれらが起こり得るという覚悟をもっておくことも心理職の重要な仕事のひとつだと思います。
それでも、こぼれおちてしまうものもある
心理職に限ったことではないとは思いますが、自分がかかわっていた人が自ら選んで「向こう側」へ行ってしまうことほど、こたえるものはありません。私自身にはその経験はありませんが、悲しいことにそのような話は何度か耳にしたことがあります。担当していた人にはかける言葉も見つかりませんでした。
希死念慮をもつ人には、いっそう丁寧なかかわりが必要になりますが、自分だけではなく、医師はもちろん家族や関係機関などとの綿密な連携がたいへん重要です。心理職や医療機関が本人と過ごす時間は限られています。
とても難しいことであり一言ですませられるものではありませんが、どうにかしてなにか、その人のなかに「この世にとどめておける重し」のようなものができれば良いと思っています。しかし、どんなに一生懸命力を入れて器を作っても、人間の掌からは水はこぼれおちます。自分ができることの限界を知って抱えこみ過ぎないことも大事です。
懸命に前を向く人たちに励まされ
心理職とはそもそもなにかしらのトラブルや葛藤を心にかかえた人と対峙するのですから、はじめから困難なことがあるのは当然だと思います。日々自分の無力さを痛感しながらもこの仕事を続けているのは、それでも懸命に生きていこうと前を向く人たちの姿に、ほかならぬ私自身が励まされているからなのかもしれません。