教師を目指す人はたくさんいます。教師は子どもの成長に携わることのできる素晴らしい職業です。しかし憧れる人が多いゆえに「教師になるにはどのような勉強が必要なのだろう」と不安になるかもしれません。今回は元中学校教諭の筆者が、現場にいたからこそわかる知識を交えながら、教師を目指す人が心理学を学ぶべき理由を3つお伝えします。
教員免許取得のために心理学の講義が必修
教師を目指すならば、教員免許状を取得しなければなりません。教員免許状を取得するには、大学で文部科学省が指定する科目を全て受講する必要があります。その科目には、以下のようなものがあります。
教科に関する科目
教職に関する科目(教職の意義、基礎理論、生徒指導など)
その他の科目(日本国憲法、体育、外国語コミュニケーションなど)
介護等体験
文部科学省ホームページ「教員免許状取得に必要な科目の単位数」より引用、かっこ内の抜粋は筆者
上記にある「教職に関する科目」の中で、児童生徒の心について学ぶように指定されているのです。大学や担当教員によって学ぶ内容に多少の差はあるかもしれません。しかし、子どもの成長や学習などに関連した教育心理学は、教師になる上で必須の知識であるため、どこの大学でも学びます。教育心理学には以下のような内容があります。
- 子どもの認知機能はどのように発達するのか。
- 教師は子どもにどのような影響を与えるのか。
- どのような指導がよりよい成長を促すのか。
- 年齢ごとにどのような心理的発達が見られるのか。
- 心理学の歴史とはどのようなものか。
教師になる人ならば身に付けておかなければならない知識ばかりです。そのため、教員免許取得には心理学の講義を避けて通れません。大学の講義では、テストやレポートで一定の基準以上の成績を修めることが必要とされます。そのため、自主的に心理学を学んで知識を身に付けていると、単位取得の上で有利です。
※教育心理学について詳しく知りたい方はこちらの記事「「教育心理学」を知りたいあなたへ 押さえておきたいポイント3つ」をご覧ください。
教員採用試験に出る
教師を目指すほとんどの人が教員採用試験を受験します。教員採用試験に合格すれば、教諭として正規雇用されます。
実は、教師にはさまざまな雇われ方があるのです。会社に勤める人の中にもアルバイト、正社員、派遣社員などがいるのと同じことです。教師の場合は主に教諭、常勤講師、非常勤講師の3つの雇用形態があります。
教諭
教諭は、地方自治体や学校法人に正規雇用されている人のことです。基本的に定年まで雇われます。皆さんがイメージしている「教師」とは、「教諭」が多いかもしれません。教員採用試験に合格すれば教諭になることができます。
常勤講師
常勤講師は、教諭とほとんど同じような働き方をします。中学や高校であれば、部活の顧問を担当することになるでしょう。中には担任クラスを持つ人もいます。しかし、正規雇用ではないため、半年や1年で雇用期間が終わってしまいます。
非常勤講師
非常勤講師は特定の科目の授業を担当する働き方です。教諭と常勤講師は月給で給料が支払われますが、非常勤講師は時給です。そのため、労働時間外の部活は担当しないはずですが、部活の顧問を担当させられる地域もあります。土日も部活の顧問として働くこともあります。雇用期間は半年や1年です。
教諭になるための教員採用試験
教師を目指す人であれば正規雇用である「教諭」を目指すはずです。教諭になるためには、地方自治体や学校法人が行う「教員採用試験」に合格しなければなりません。教員採用試験の内容には次のようなものがあります。
1次試験
- 専門試験(中学高校などで担当する科目の試験)
- 教職教養試験(教育心理学・教育の歴史・法律など)
- 一般教養試験
2次試験
- 面接
- 小論文
- 模擬授業
- 実技試験
試験の内容は、地域によって差があります。一般教養の筆記試験が実施されない地域もありますし、出題傾向は地方自治体によってかなり違います。地方自治体ごとに教員採用試験の過去問が販売されているので、志望する地域の過去問を入手して傾向をつかみましょう。
教職教養の筆記試験では、教育の歴史や教育心理学、教育に関する法律などが出題されます。中でも教育心理学は実践で応用できる学問であるため、必ずといっていいほど出題されます。自ら進んで先に心理学を学んでおけば、高い点数を獲得できて合格に近付くことができます。
教育心理学の基礎知識が実践に役立つ
教育心理学の知識は、実践で役に立つものばかりです。実際、多くの教員が教育心理学の知識を現場で応用しています。教育心理学の研究には「どうすれば学習内容が身に付きやすいか」といったものもあるため、学級通信やホームルームで取り上げて、子どもたちに教育心理学の知識を伝えることもあります。
発達段階を理解するヒントになる
教育心理学では、年齢によって子どもの心理がどのように変化するか研究されています。そのため、子どもとの接し方のヒントになります。
特に小学生は成長のスピードが早く、1年生と6年生ではコミュニケーションの取り方も使う言葉も別物です。小学校教師は担当学年によって子どもとの接し方を変えなければなりません。しかし6年生の担任が、次の年に3年生や1年生の担任になると戸惑うことも多いようです。教育心理学では、年代別に子どもと対応するヒントを得られます。
学級経営・授業で役に立つ
学校では常に集団で行動します。そのため、集団の雰囲気が個人の成績や生活に影響を及ぼします。「勉強がんばろう!」と前向きな雰囲気のクラスと「勉強めんどくさい」と怠惰な雰囲気のクラスでは、クラスの平均成績が大きく変わるのです。子どもの力を伸ばすには、活気にあふれた雰囲気の集団をつくることが求められます。
「よりよい学級をつくるにはどのような声掛けをしたらいいか」「生徒が前向きに授業に取り組むために、教師はどのようなことができるか」教育心理学ではこのようなヒントを得られることができます。教育心理学を応用して「学校が楽しい」と言ってもらえるような学級経営・授業をつくりたいですね。
子どもの気持ちを理解するのに役立つ
教師の仕事は、子どもが自分の力を伸ばし、よりよく生きていけるように導くことです。そのため、子どもが自分で直面している問題を解決できるよう支えなければなりません。その際に、心理学の知識が役に立ちます。
子どもはさまざまな問題行動を起こします。不登校、学業成績不振、暴力暴言、性的なトラブルなどです。これらの問題の裏には、強い自己否定や家庭内の不安やストレスなどが隠れていることがあります。しかし、子どもは教師に対して本音を言わないことも少なくないです。
そこで役に立つのがカウンセリングなど心理学の基礎知識です。「どうすれば子どもと信頼関係を築きながら本音を引き出すことができるのか」「どうすれば子どもが自分に自信を持てるのか」心理学はこのようなヒントを与えてくれます。子どもの心との架け橋となってくれるのです。
教師としての免許取得・就職・実践に役立つ心理学
今回は、教師を目指す人が心理学を学ぶべき理由をお伝えしました。教員採用試験にも出題されるため、教師として採用されるためには教育心理学の知識を身に付けることが必要です。現場に出てからも学級通信や集団作り、児童生徒の理解などさまざまな場面で知識を応用できるでしょう。なにより、「子どもたちのため」と思って担当する科目だけでなく心理学まで学ぼうとする熱意は、教師になったときに生徒に伝わります。その熱意に多くの子どもが勇気づけられることでしょう。