心理学の仕事に何となく興味があるという人は多いのではないでしょうか。「知的でカッコいい」「カウンセラー」「精神障害者を相手にするの?」などさまざまなイメージがあるでしょう。具体的な業務内容については個別の記事に譲るとして、ここでは学ぶことと職業の関係性について説明します。キャリアのために学ぶことを考えている人の参考になれば嬉しいです。

心理の仕事とは何か?
「心理」の部分を他の言葉に置き換えてみましょう。
①法律の仕事
②建設の仕事
③編集の仕事
④医療の仕事……
何となくイメージできますよね。①は弁護士や司法書士など、専門家としての資格を持ち、クライエントの代わりに裁判で闘ったり、役所で手続きをしたり。④は医師や看護師、②は設計士や大工、③は文章を書いたり本を作ったり……。
これらと比べると、「心理の仕事」はイメージがつきにくいと思います。
ひとの心やカウンセリングなどに興味がある人は、まず頭の中に「カウンセラー」が思い浮かぶかもしれません。
ただ、それだけではありません。
ここで問題です。先ほど挙げた4つの中に仲間外れがいます。どれでしょうか?
答えは①です。これは最初の2文字が行為を表す言葉ではありません。
それぞれ最初の2文字の後に「する」をつけるとわかりやすいと思います。
建設する仕事
編集する仕事
医療(行為)をする仕事
とはいいますが、
法律する仕事
とはいいません(「法律行為をする」という法律の専門用語はありますが、意味が違ってきてしまいます)。
建設や編集、医療は行為を表す言葉ですが、法律は「モノ」です。
法律の仕事とは、 法律への知見にもとづいた専門性の高い職業・業務です。
同じように、「心理」というモノを扱う仕事を、ここでは次のように定義します。
『心理の仕事とは、心理学の知見にもとづいた、専門性の高い職業・業務』
いい換えると、「心理学で導き出された理論を用いて何らかのサービスやモノを提供し、対価を得ること」です。つまり「心理学の知見を世の中の役に立てて、お金をもらう」ことです。
法律の仕事をするためには法律を学ばなければなりません。同じように、心理の仕事をするためには心理学を学ぶ必要があります。これが専門性です。
専門性はあるのか?
心理学は人の心の動きや行動の法則性を研究する学問です。
ここでひとつの疑問が生まれるかもしれません。人の心や行動に専門性などあるのだろうか?
確かに、心や行動はとても幅が広い概念です。人はみな、それぞれ独自の心理学のようなものを持っているのかもしれません。「人間とはこういうものだ」「こう言われたらこう言い返せばスムーズに行く」などと、行動と結果における法則や人間関係のテクニックなどを持ち、役立てます。しかしこれらの考えは、主観にもとづいた経験則でしかありません。経験したことのない場面では役に立たないことがあり、それに事前に気づくことも難しいのです。
これに限らず学問は、先人たちが積み重ねた知見を身につけていくことです。自己流の法則よりも多くの場面で使用でき、より好ましい結果を生みやすいといえます。
カウンセリングや心理検査などでは、一般的な生活の中でほとんどしないようなコミュニケーションをすることがあります。言葉が出にくい人から話を聞いたり、考え方が極端な人に寄り添ったりする必要があるのです。専門的な知見があるからこそできることです。
どのような場面で、どのような行動をとるのが望ましいのか。場面ごとに知見を深めていくことが専門性です。
心理学はさまざまな専門分野に分かれます。例えば、教育心理学であれば、教師と生徒の関係や、いじめ、学業と生活態度の関係などの法則性を研究するわけです。その法則や研究過程を理解し、応用できれば、これらの問題をよい方向に導いていける可能性が高くなります(教育心理学の研究内容について詳しく知りたい人はこちらの記事をご覧ください)。
「心理学者=カウンセラー=ただ話を聞いているだけの人」ではありません。心と行動の法則性にはさまざまな専門分野があり、それぞれ違った場面で役に立ちます。
心理の仕事とは、誰かの心や行動に働きかけ、その人が望ましいと思うほうに変えていくことなのです。つまり「人を変える作業」ですから、ミスが許されません。悪意を持って行うなどもってのほかで、強い倫理観が求められます。
資格はあったほうがいい?
資格があれば、ある程度その人の勤勉さがわかり、専門性を証明することができます。持っているに越したことはありません。とはいえ、資格がないからといってできないわけではありません。
世の中にはさまさざな資格があり、いろいろな職業があります。法律上、業務独占資格は、その資格を持たない人が業務を行うと、罰せられる資格です。名称独占資格は、 その資格を持たない人が名乗ると罰せられます。しかし業務自体を行うことに問題はありません。
今のところ心理職には業務独占資格がありません。最近できた国家資格の公認心理師が話題になっていますが、これも名称独占資格です。当然ながら、民間資格がなければできない業務もありません。
しかしながら、資格はあったほうが格段に業務しやすくなります。特に経験がない人にとっては、専門性の高いカウンセリングや基礎心理学を活かした職業につくことが難しいでしょう。カウンセラーの求人を出しているクリニックの多くは、資格か経験、あるいはその両方を応募条件にしています。
高収入なスクールカウンセラーも、実質的に臨床心理士・公認心理師の資格がなければ、なることはできません。
職場にもよりますが、やはり心理の仕事は専門性が高いのです。
では、どのような資格を取ればよいのでしょうか。それは、何をしたいかによります。
もし働くイメージが具体的にできていないのであれば、公認心理師を目指すのもひとつの手です。「人が行動や考え方を変えるサポートをしたい」「研究が好き」という人にとって、可能性が広がります。国家資格であり、汎用性が高く、取得に長年の歳月を要する(大学4年+大学院2年の計6年が一般的)ため、心理のプロを目指していく上でとても重宝するでしょう。スクールカウンセラーの応募条件にもなっています。スクールカウンセラーのなりかたについての記事はこちら
ただ、具体的に関わりたい人のタイプや極めたい心理療法が決まっているのであれば、それに関連する資格を取れば十分です。例えば精神障害者の経済的な支援をしながらカウンセリングもしたいというのであれば、精神保健福祉士の資格を取ってから、専門学校などでカウンセラーの勉強するという方法があります。
心理の民間資格には、臨床心理士を始め、非常にハードルの高いものから、たった1回の講習で取得できてしまうものまでさまざまです。自分がやりたいことが何かを見つめ、過不足なくとるのが理想と言えます。
行政書士は弁護士と比べて、短い学習期間でとれます。 看護師と医師の関係も似ています。ただ、行政書士は行政書士の、看護師は看護師の資格をとることで、業務独占資格をできるというメリットがあります。それに比較して、心理系の資格はあれば有利にはなるものの、その効果は流動的です。
もし稼ぐために資格をとるのであれば、弁護士や司法書士などの法律関係の国家資格のほうがよいでしょう。就職を有利にしたいのであれば、簿記やファイナンシャル・プランナーなど、ビジネス系の資格をおすすめします。
心理学を学んで「人が変わる」サポートをする
心理学の仕事は、「心と行動の法則」を知り、人が心のあり方や行動を望ましい方向に変えていくためのやりとりやアドバイスをします。法則性をさらに深めていく研究の仕事もあります。資格があれば関連する職務につきやすくなりますが、一般的な就職に有利になるわけではありません。具体的なイメージができるよう、先輩に話を聞いたり情報を集めたりするとよいでしょう。